そして舞台上の本番では、若手とベテランの差が出るところなのだが、若手はなかなか客席の空気を読めずにネタを縦横無尽に変えることができない。ベテラン芸人はそこはマイペースで、自分たちの流れをつくって観客を誘っていくことができる。ここは経験と肌感覚、「KY」(空気を読む)力がどれだけ身についているかである。
聞き手を見て話術を進める「生身のユーザーファースト」
このように、劇場育ちの吉本興業の芸人は他事務所の芸人たちとはここが大きく違うのである。「聞き手」のことをよく見て頭に入れて話術を進めていけるということだ。
いま風にいうとテレビやラジオ、インターネットなどのメディアを介さない「生身のユーザーファースト」だ。
年齢や性別、出身地や職業などによって、笑いのツボは変わってくる。そこを舞台に立って確認しながら話を続けるのだ。
新人の芸人はネタ数も少なく、多種多様な場面に対応できるバリエーションを持っていないから、お客さんによってはだだ滑りする。うまいという芸人ほど、お客さんを理解しているといえる。
「紳助・竜介」はターゲットを絞って成功した
なかでも引退した島田紳助と故松本竜介のコンビの絶頂期は、花月劇場において全員のお客さんをターゲットにせず、20歳から35歳の男性だけにターゲットを絞り、ネタをうっていた。
「みなに受ける漫才は他の芸人に任そう。俺たちは狙ったターゲットを射落とす」という主義だったそうだ。
これは紳助ならではのマーケティングによる「ユーザーファースト」だといえる。それが絶大なる支持を受け、生には生の、テレビにはテレビの見せかたを見つけ出し、スターダムにのし上がった。ただ当時は劇場の支配人から「もっと他のお客さんも笑わさんかい!」としょっちゅう怒鳴られていたようだ。