設立1カ月半で起きた最大の危機
山田がフリマアプリをやろうと決め、メルカリの前身であるコウゾウを設立したのは2013年2月で、アプリのリリースは同年7月。競合の動きを見ると決して早いとは言えないが、キャッチアップできるギリギリのタイミングを攻めていた。その焦燥感は半端なものではない。如実に物語るエピソードがある。
会社設立から1カ月半後の3月中旬、山田が「メルカリ最大の危機だった」と振り返る事件が起きた。アプリ開発をメーンで担当していたエンジニアが突如、耳の病気にかかり、会社を辞めざるを得なくなったのだ。山田はすぐに、フリーで動けそうなエンジニアに片っ端から声をかけ、そのうちの1人とランチをし、その場で「やります」という確約を得た。
さらに知人に電話で相談したところ、「今一緒に飲んでいるエンジニアがもしかしたら、手伝えるかもしれない」と告げられたため、急遽、飲みの場へと足を運んで懇願した。そのエンジニアは別の会社も手伝っていたため難しい相談だったのだが、彼もその場でメルカリにジョインする決断をくだす。
この間、わずか2日。大金を積んだわけではなく、常識的な額だった。にもかかわらず、2人のエンジニアはなぜオファーを受けたのか。山田に聞くとこう答えた。
「当時は先行していたアプリから半年以上も遅れていましたし、やるんだったら早く出さないと、という思いがすごく強かった。僕があまりに必死だったから手伝ってくれた、というのがあるかもしれません。もう、今にも死にそうみたいな(笑)。これ断られたら全部おしまいみたいな。相当やばかったですね。気持ち的に」
タイミングへのこだわりと危機感がなければ、立て直しを図るのに数週間は要しただろう。だが、2日で挽回した。こうした「差」はその後も随所に出てくる。