米トイザらスが破綻に追い込まれた理由

セブン&アイに移ってからネットとリアルの融合に取り組んだ10年は、困難を伴うものだった。リアル店舗がネット並みに在庫を持つためには、大変な構造改革が必要になる。また、リアル店舗にはこれまで長い期間培ってきた業務フローがあるため、これを変えようとすると大きな反発が生じる。融合はなかなか進まなかった。

一方、アマゾンはネットからスタートしてリアルの融合へと取り組んでいった。ネットの世界は制約が少なく、在庫さえあれば一定のコンセプトに基づいて、リアル店舗を比較的自由に展開できる。そしてネットを主体にして、リアル店舗はそこへ引き込むひとつの導線になればいいのだ。

これとは逆に、リアル店舗が主体という発想を転換できずに失敗したのが、米トイザらスだった。当初、アマゾンで唯一の玩具販売業者として、Eコマースに出店。後に独自のオンラインショップを開始したが、「店舗で売っているものと同じ商品をネットでも売ればよい」という考えを捨てられなかった。結果、品揃えも増えず、アマゾンに在庫などで大きく水を開けられ、最後は破綻に追い込まれてしまった。

アマゾンには「客単価×客数」の発想がない

アマゾンにあって他の企業にはない強さとは何だろうか。いくつもある中で、最近感じる大きな強みは2つある。

ひとつは、「プラットフォームを自前で構築していること」

たとえば自社業務のために擁していた膨大な数のサーバーの一部を貸し出し、クラウド事業を始める。今やアマゾンのクラウドサービス、AWSの世界的シェアは30%以上だ。物流も自前なので、配送システムを提供するサービスも行える。自前の事業をつきつめて、そこから新しいものを生み出す姿勢が徹底している。これも社員の半数以上をITエンジニアが占め、思いついたアイデアを素早く具現化できるからだろう。

もうひとつが、「究極の顧客主義」に基づく発想である。

収益をとらえるとき、日本の一般的な小売業は「客単価×客数」で計算する。対して、アマゾンの持つ方程式は、「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」だ。「顧客生涯価値」とも訳されるライフタイムバリューとは、1人の顧客が特定の企業と取引を始めてから終わりまでの期間にどれだけ利益をもたらすかを算出したものである。