想定外の状況に対応できない選手
とはいえ、選手個々の創造性がますます重視されるようになった現代のスポーツ界において、「上に言われたことには無批判に従う」という習慣付けは、A氏の指摘どおり時代遅れと言わざるをえない。日米での競技経験があり、大学生向けの「フットボール・クリニック」と呼ばれる実技指導でサポートスタッフを務めたこともあるアメフト関係者は、「他大学と比較して、日大の選手は自分で考えて状況に対応する力が弱いと感じます」と指摘する。
アメフトでは各選手が緻密な作戦に従い、事前に与えられたそれぞれの役割を遂行することがプレイの基本となるが、クリニックではより実戦的に、想定外の事態が起きたときどう対応するかというトレーニングも行っていた。「それこそ日本代表に選ばれるようなレベルの選手が参加していたのですが、日大の選手は能力は決して低くないのに、『上からの指示が絶対』ということが体に染み付いていて、指示がない状況でおどおどしてしまう場面がよくみられました」
強い先輩を尊敬しつつ、同じ問題意識を持っていたA氏は、自分が上級生になったときに同じ学年の仲間たちと話し合い、下級生を抑圧するそれまでの慣習を一掃した。「自分たちが嫌だったことはもうやめようと。みんながやりやすい環境で、練習や試合に集中してもらったほうがいいと思ったんです。その後、実際に後輩たちが結果を出してくれて、『今の時代のやり方にしてよかった。自分たちの選択は間違っていなかった』と思いました」
組織改革が行われにくい環境
とはいえA氏の部の改革は、監督が現場に裁量権を与え、学生とも常にコミュニケーションをとるタイプの人物だったからこそ可能だった。選手と監督が直接話もしない、コーチも監督にものを言えないという状況であれば、学生には何も変えようがない。異なる部の間で、組織のあり方や運営方針について意見を交換するような機会も風土もない。そうなると日大アメフト部のように、前時代的な上意下達の風土が温存され続けることになる。
「今の日大アメフト部の体質は、(名監督と言われた)篠竹幹夫さんの時代から受け継がれてきたものでしょう」と、前述のアメフト関係者は言う。「篠竹さんが偉大すぎて、他の誰も彼にものが言えない状況で、一方通行的な上意下達のシステムができてしまった。篠竹さんがいなくなったあとも、そのシステムがそのまま残ってきたのだと思います」