2004年に大阪近鉄バファローズを買収しようとしたり、2005年にはフジテレビジョン(以下フジテレビ)の親会社だったニッポン放送を買収しようとしたりするなど、“仰天ニュース”で次々と世間を賑わせ、その舌鋒の鋭さと強烈なキャラクターで賛否両論を巻き起こしながら、人気者、時代の寵児になっていきました。
「もう10年社長をやっているんですよ」
そんな飛ぶ鳥を落とす勢いだった堀江さんの報道の中で、私には忘れられないシーンがあります。ライブドアがニッポン放送の株を買い集めて筆頭株主になり、フジテレビの経営権を握ろうとしていたときのことです。
あるテレビ討論会に、経営コンサルタントとして当時、大前研一さんと並んで有名だったドリームインキュベータの堀紘一さんと堀江さんが参加していました。堀さんは堀江さんに対してとても批判的で、「君みたいな若いやつが、フジテレビの経営なんてできるか」といったことを吐き捨てるように言いました。
当時、堀江さんは30歳そこそこの若者です。そのときの私には、堀さんの言っていることが正論に聞こえました。それに対して堀江さんは、なんと、
「できますよ。何を言ってるんですか。僕はもう10年、社長をやっているんですよ」
と言い返したのです。
ベンチャーキャピタルに入社する直前の私には、堀江さんの言っていることがピンと来ませんでした。「この人、何を言っているんだろう。自分で作ったネット企業の社長を10年やったぐらいで、大企業の社長が務まるわけがない」と、当時は単純に思ったものです。
でも、今ならその意味がわかります。堀江さんは、起業した会社のオーナー社長として、ゼロからイチへ、イチから10へと事業を成長させ、そして当時まさに10から100へと成長させている最中でした。堀江さんはああいう性格なので苦労を口にすることなどありませんが、余人には計り知れない困難があったと思います。そのプロセスにおいて、堀江さんはマネジメントで経験することのほぼすべてを体験していたのです。
経営者としてそれほどの経験値を持つ人は、もちろん当時のフジテレビの中には1人もいなかったでしょうし、現在でも、世の中を見渡しても数えるほどしかいないでしょう。
当時フジテレビ会長だった日枝久さんにしても、初めから規模100の組織に入って昇格したサラリーマンです。優秀な人材ばかりのフジテレビの中で成果を出し、上司に認められ、昇格し、会長に上り詰めました。それはそれですごいことですが、堀江さんのゼロイチ起業家、経営者としての経験とは根本から次元が異なるのです。
おそらく、ご自身もオーナー社長として独立し、ベンチャーのコンサルをしていた堀さんはそのことをわかっていたはずです。ただ、ボストンコンサルティングで大企業のコンサルをしてきた経験豊富な堀さんには、古い体質の大企業を経営する難しさがわかっていて、堀江さんに対し「組織論が違う」ということを言ったのかもしれません。
その1年後、堀江さんは証券取引法違反容疑で逮捕され、実刑判決を受けて収監されることになりました。
堀江さんは、今でも精力的にさまざまな事業を創り出しながら、事業家として活躍されています。歴史にifはありませんが、もし堀江さんがフジテレビを率いていたとしたら、その後のフジテレビはどうなったでしょうか。ネット世界の拡張、また、昨今のフジテレビの視聴率の低迷を見るにつけ、堀江さんが経営するテレビ会社の姿を見てみたかったと思えてなりません。