食事が運ばれると女性たちは旺盛な食欲を見せ、パクパクと料理を平らげていく。私は彼女との距離を縮めたいと思い、適当に話題を振った。
「一緒に来た友達は学校の同級生? それとも同僚?」
「前の職場の同僚だけど、今でも仲良くしてるんだ」
こちらの質問には最低限しか答えてくれず、間もなく3人は私にはよくわからない内輪ネタで盛り上がり始めた。共通の友人の話をしているらしい。完全に蚊帳の外に置かれ、黙々と箸を動かすしかなかった。
「じゃあ私たちはもう帰るから」
食事を終えると彼女たちはリュックサックのなかからかっぱえびせんの模造品と思しきスナック菓子を取り出し、テーブルの上でパーティー開けしてバリバリと音を立てて食べ始めた。中国のレストランは食べ物の持ち込みに寛大な場合が多く、この店でも店員は黙認していたとはいえ、日本人的にはNGである。
店員が「お会計になります」と言って伝票を持ってきたが、誰一人見向きもせず、我関せずとばかりに雑談を続行。当然のように私が支払った。4人で200元(約3000円)ほどだった。
ご馳走をしてもお礼の言葉は一切なく、そのまま席を立って外へ出て、3人だけのおしゃべりが続いた。この“自由奔放さ”を可愛いと思えるだけの包容力がなくては、中国人女性と付き合うことはできないのだろうか。結局、店の外へ出ると彼女たちは、
「じゃあ私たちはもう帰るから」
と言って去っていった。中国では交際相手のレベルが自身の面子や体面にも大きく影響するという。友人2人を連れてきたのは、「この男と付き合って恥ずかしくはないか」をチェックする意味もあったのだろう。
中国では男性が女性におごるのは当然のことだし、親しい者同士の間ではわざわざ「謝謝」と口に出して感謝することは少ないのだが、それでも日本人の私には違和感しか残らない。彼女の魅力はすっかり色あせてしまった。
フリーライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『この手紙、とどけ!106歳の日本人教師歳の台湾人生徒と再会するまで』『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』『上海裏の歩き方』、訳書に『台湾レトロ建築案内』など。