結果としてデータが発見されても、その後の公開に向けた作業量も膨大だ。全ページをプリントアウトし、情報保全の観点から公開を避けるべき部分は黒塗りする作業が必要となる。陸上幕僚監部(陸幕)では、次年度の予算編成作業や訓練計画など処理案件が常に山積みで、日中はそれらの案件を優先せざるを得ず、黒塗り作業は連日の徹夜が前提となってしまう。
東京・市ヶ谷にある幕僚監部は、自衛隊の中でもA級エリートが集まる場所だ。国会会期中や予算編成時には寝食を忘れて机にかじりつき、訓練担当部署や広報担当部署は出張も多く、庁舎に戻れば山と積まれた書類の束に言葉を失う世界である。国防政策を裏から支える重責を担う彼らの仕事には、部隊指揮官とはまた別の厳しさがある。そんな多忙な彼らを家探しに動員するとは、無駄の極みであるとしか思えない。
そもそも日報は、永久にアーカイブされるべき特級資料であり、これに一般の公文書管理規則を適用するのは適切とは思えない。一方で、職務上の必要から個人が資料としてコピーした日報については、そのデータは既に日報としての位置づけを失っていると考えるべきで、それが見つかったという話を隠蔽(いんぺい)事案呼ばわりするのも極端な話だ。
現場のリアルな状況を無視した「戦闘」議論
日報問題について野党側は、政府が自衛隊を「不法に派遣した」という主張を核に置き、その根拠として「派遣先での戦争状態突入」と「日報の隠蔽」を挙げている。その根底には「自衛隊を海外で活動させない」という考えがあり、かつての「非武装中立論」にも通じる思想性が感じられるが、それは昭和の遺物であり、既に大多数の国民が支持できない考え方だろう。
日報問題は「南スーダンは非戦闘地域ではないのではないか」という疑念に端を発するものだ。確かに派遣当時の南スーダンでは、政府軍と反政府組織との間で激しい戦闘が起きる瞬間もあった。第5次隊では、駐屯地周辺で銃撃戦が発生し、部隊指揮官が自衛のための射撃許可を出した例もある。しかしそれは突出例であり、政府軍、反政府組織の双方ともが、将来をにらんで日本の支援や援助に期待しており、自衛隊を積極的に狙う理由をもたない。