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相手を訴えて、火に油を注ぎませんか?

労働審判というのは、労働事件を早期に解決するために用意された制度だ。不当解雇などで労働者の側から利用されることが多い。それを普段とは逆に、会社から申し立てたということだ。内容としては、「労働者の主張は根拠がないものであって、会社として支払うべきものはないことを確認する」というものだ。

経営者からは、「こんなことして、火に油を注ぎませんか」と言われた。私は「延焼する前に止めるのも、経営者の責任でしょ」と答えた。経営者が「はっ!」とした瞬間だった。労働審判を申し立てられた相手方は、青天の霹靂だったはずだ。相手方からは、第一回目の期日の前に、裁判にせず話し合いで解決したいという申し出がなされた。結果、大幅な減額をして示談で終了させ労働審判は取り下げた。

このときに示談書では、金銭をもらったことを他の社員らに話をしてはいけないという取り決めもした。一人がお金をもらったことを他の社員が知ると、会社の一体感にひびが入るからだ。こういった配慮を弁護士としても忘れてはいけない。経営者はあまりのスピード解決にあっけにとられていた。

クレーマーには、裁判手続きが効くことが

なぜ、労働審判を申し立てたか。一つには、両親と当事者を切り離すためである。裁判になれば、両親は当事者でないため参加できない。相手を分断させるというのは、交渉の基本だ。もう一つは、相手の言い分に根拠がないことをハッキリさせるためだ。相手としても、根拠がハッキリしていたら、交渉を継続することなく弁護士に依頼して訴訟などの手続きを取っていたはずだ。

根拠がないため、もしかしたら弁護士に受任してもらえなかったのかもしれない。あるいは根拠がないことがわかっているからこそ、あえて交渉に固執していたのかもしれない。相手がこういったクレーマーにも近い要求をしてくる場合には、会社から裁判手続を取ることが有効だ。他にも相手方となる当事者が複数いる場合、あるいは事実関係に争いがなく支払う金額で妥結できない場合などでも、裁判所を利用することがある。

立派なシステムも、利用しなければ価値なし

私は、あらゆるトラブルは話し合いで解決するべきというスタンスだ。労働事件であっても、できれば裁判を利用せずに問題を解決したいと考えている。それでも限界というものがある。いつまでも問題が解決しないというのは、誰にとってもいいことではない。

裁判とは、勝敗を決める場所ではなく、紛争を解決するためのシステムだ。いくら立派なシステムを構築しても、利用しなければ価値がない。経営者の方も、一つの問題解決の手段として、頭に入れておいていただきたい。

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