トランプ米大統領による「本気の圧力」が状況を動かした
金正恩はケンカの王道をよく理解している。自分たちの国の力を冷静に把握し、それに合わせての行動をとっている。大国を動かすためには自分たちがまずは力を持つ必要があること、いったんは勢力均衡を作り出す必要があることから、核兵器や大陸間弾道ミサイルの開発に力を入れ、ギリギリのところまでアメリカとチキンレースの勝負に挑んだ。最初から味方になってくれそうな強い国をあてにすることなく、自らの単独の力を蓄えた。日本がアメリカの力を笠に着るようなことはせず、中国には最初から媚びるようなことはしなかった。しかしこれ以上進むと、自分たちは負けると思ったのだろう、いったんチキンレースからは降り、米朝会談を仕掛けてきた。その前に、中朝首脳会談を実現した。
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僕は金正恩がこのような態度を取る可能性を少なく見積もっていた。金正恩は最後は暴発するリスクが高いと思っていた。でも、金正恩は、僕が考えるほどそんなバカな男じゃなかった。きちんと降りるべきところでは降りる判断ができる思考回路を持っていた。
そのような意味では、今回、死に物狂いで北朝鮮に圧力をかけ、これまでアメリカ大統領が声を上げても中国やロシアその他の世界各国が本気で腰をあげなかった北朝鮮への経済制裁について、中国やロシア、その他世界各国を動かしたトランプのおっちゃんはたいしたものだ。中国にもバンバン経済制裁をかけていく、ある意味むちゃくちゃなこんなアメリカ大統領は、これまでいなかった。歴代米大統領や世界の国家指導者、そして政治家たちは皆、国際協調という呪縛にかかり、世界で優等生に見られることに価値を置いていた。そのような政治家には、事態を大きく動かすことはできない。きれいごとを述べるだけの優等生には、国際社会を動かせない。まさにトランプのおっちゃんだからこそ、中国やロシア、そして世界が重い腰を上げたのだ。政治家は道徳家ではない。事態を動かすことこそが政治家の使命だ。
逆に、トランプのおっちゃんを、そして中国やロシア、それに世界各国をそこまで必死にさせた金正恩の核兵器・ICBM開発戦略も、事態を動かす原因となった。
トランプと金正恩は意気投合する!?
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負ける戦はしない。力がないなら、いったん一呼吸を置いて状況の転換を待つ。
このことを僕は日本政府に対して、これまで言い続けてきたけど、金正恩はそれをきっちりとやってきた。本当に核兵器を放棄するような方針転換したのかどうか、そんなことは金正恩の腹の中の話なので誰にも分からない。普通に考えれば、そうは簡単に核兵器を放棄するわけがない。金正恩こそ、小国にとって核兵器がいかに重要かを一番認識している者だからね。しかしあれだけトランプのおっちゃんと激しくののしり合っていたのに、米朝会談を模索するということは、一呼吸置きにきたことだけは間違いない。
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非民主国の軍部を抑えるのは本当に大変なことだ。あれだけアメリカに強気で迫っておきながら、米朝会談を模索できるということは、金正恩は軍部や労働党などをうまくマネジメントしているのだろう。粛清という恐怖によってマネジメントしているところもあるだろうが、それも含めて、自分が暗殺されないように何とか切り盛りしている。
そしてあれだけ激しくやり合ったトランプと金正恩。こういう関係に陥った者が話し合いの場に就くと案外意気投合するというのもケンカにおける定石だ。
世界の中で最強のアメリカ相手にあそこまでやってきた金正恩を、トランプのおっちゃんは評価すると思う。トランプはそういう人間だと思う。学者や自称インテリとは真逆の、泥臭い人間。さらに金正恩は、先日の習近平中国国家主席との会談の様子を見る限り、完全にジジ殺しだ。歳上から好かれるタイプだろう。
ということで、トランプ、習近平、金正恩は、肌合いはイイと思う。もちろんロシアのプーチン大統領も。各政府組織の担当は激しくぶつかり合うと思うが、トップの肌合いがイイことで、大戦は回避できる。
もちろん、肌合いがイイことと、金正恩がトランプのおっちゃんの言うことを全て聞くこととは別であり、核・ミサイル交渉は難航するであろう。しかしトップ同士の肌合いがイイことは、国際社会を安定させるためには非常に大切な要素だ。
付け加えれば、このメンバーには、オバマ大統領は全く肌が合わない。それは皆さん、よく分かりますよね(笑)
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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.98(4月3日配信)を一部抜粋し、修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【激動・北朝鮮情勢】米朝会談実現へ:事態を動かすセオリー通り! 金正恩の戦略的思考は見事だ》特集です!!