離婚→生活保護→逮捕「再び医師に」と裁判官に訴える
被告人は聞かれたことに対し、ゆっくりした口調で誠実に答えた。
足の痛みや経済状況についても、質問されれば理路整然と応えるが、大げさに窮状を訴えることはしない。クルマはすでに処分し、無免許運転はもうしないと誓った。今後は自分と暮らしている子供も別れた妻のもとで暮らす予定になっているそうだ。
淡々と進む審理のなかで唯一、被告人の声のトーンが変わったのは、これから先の人生について裁判長から尋ねられたときだった。
「うつ病からは回復していますので、医師として再出発できればと思っています。これまで復職を試みてうまくいきませんでしたが、就職が決まれば、(残っていた研究機関での)2年間の研修医生活が始まります。ただ、この裁判の影響で医道審議会(医師の免許の取り消しなどに関して調査・審議を行う厚生労働省の審議会)にかかるかもしれないので、それがはっきりするであろう1年後から、働き口を探そうと思っております」
生活保護に甘んじるのではなく、もともと目指していた医師としてやっていきたい。病に苦しみ、子供との同居も解消せざるを得ない被告人にとって、それが切実な願いだ。
実家の近くに引っ越して、父親のサポートを受けながら再起を目指すことも決めている。が、ここで罰金刑以上の判決を受けると、医師免許剥奪の可能性が大きくなってしまうという。
▼罰金刑でおさめてはもらえないだろうか
整理してみよう。
被告人は今回の逮捕を受け、クルマを処分し、運転をやめようとしている。それでも生活できるよう、実家のそばに住居を移し、父親が監督およびサポートを行う。同居中の子供は別れた妻が育てることになった。仕事を得るための就職活動も1年後から行うつもりでいる。
つまり、無免許運転はもうしないし、子供の面倒を見るのが精いっぱいで就職できないという悪循環はなくなる。就職がかなえば、税金で賄われている生活保護費が、他の困った人のために使えるということだ。で、それらを円滑に行うためにも、ここはひとつ罰金刑でおさめてはもらえないだろうか。そういう話なのである。
検察の求刑は8カ月。弁護人は最終弁論で、罰金刑が相応であると主張した。