フィリピンでは、まず、2010~2016年のアキノ前政権が汚職撲滅や財政健全化への取り組みを強化したことで、政治面、経済面に安定感をもたらした。その後、2016年6月にドゥテルテ大統領が就任した。ドゥテルテ大統領に関しては、強硬な麻薬取り締まりや過激な発言など、政治面での不安定化リスクを強調するような報道が多い。
しかし、ドゥテルテ大統領の経済政策に対する国民の評価は高い。例えば、2022年までの6年間で約8兆ペソを投じる大型インフラ整備計画を実行しているほか、外資規制の緩和や税制改革にも取り組み始めた。アキノ前政権からバトンを引き継ぎ、ビジネス環境の改善に着手したドゥテルテ政権の下で、かつて「アジアの病人」と揶揄されたフィリピン経済は回復に向かい始めたといえよう。
中国に続く新たな成長市場
このように、2018年以降のインドネシア、フィリピンを牽引役とするASEAN5は、中国に続く新たな成長市場として注目される。もちろん、ASEAN5の各国には、財政赤字や経常赤字など経済構造の脆弱さという課題が残されている。各国が積極的に進めるインフラ整備などにより、財政赤字と経常収支の赤字という「双子の赤字」が拡大する可能性もある。各国とも、積極的な成長戦略・構造改革と、財政・国際収支の安定化を両立させることが不可欠である。
これまでのところ、こうした取り組みは順調に滑り出したようにみえる。今後の注目点は、経済構造改革の実行力と持続性だ。これがうまくいくようなら、6億人を抱える巨大な市場が立ち上がり、わが国にとっても大きなビジネスチャンスになろう。
日本総合研究所研究員。1986年生まれ。2010年3月名古屋大学院経済学研究科修了、同年4月三井住友銀行入行。12年4月日本総合研究所調査部マクロ経済研究センターに所属、現在に至る。研究・専門分野は内外マクロ経済分析(特にASEAN経済)。注力テーマはインドネシア経済、フィリピン経済、ベトナム経済。