年をとれば性への関心は薄れる。そんな“常識”は嘘っぱちだった。この数年、週刊誌では「死ぬまでSEX」が大人気。特に高齢者の食いつきが顕著だ。「ヘア・ヌード」という言葉をつくった男、元「週刊現代」編集長の元木昌彦氏が、高齢者のセックス事情を問う――。

「バイアグラ」空前の大ブーム

私にバイアグラの効能と使い方を懇切丁寧に教えてくれたのは浅利慶太さんと渡辺淳一さんだった。

紹介するまでもないが、浅利さんは「劇団四季」の創設者で高名な演出家、渡辺さんは札幌医大の医師から作家に転身、『光と影』で第63回直木賞を受賞し、後年は『失楽園』『愛の流刑地』など男女の究極の愛の形を描いた。

ともに私より一回り上で、当時は60代半ばだった。渡辺さんからは、酒を飲み過ぎると危険、コトを始める1時間ぐらい前に飲めなどとアドバイスをもらった。浅利さんからは、彼女とホテルに入ったらシャワーを浴び、裸のままバスローブを羽織り、バイアグラを飲んでワインを傾けムードづくりをしなさい。

バイアグラは相手を好きにならないと効果があまりない。その代わり、恋情をもよおせばこれほどすごい媚薬はない。細部までは記憶が定かではないが、恋をしている相手を口説くがごとく、私に語ってくれた。

『週刊現代』(7/22・29号)の「週現世代 夫婦のリアル『セックス白書』」

その頃、私はまだ“現役“だったから、モテる人は大変だな、とまだひとごとであった。

狭心症の治療薬だったシルデナフィル(バイアグラはファイザー製薬の商品名)が、1998年にED(勃起不全)薬としてアメリカで発売されるや、世界中で大変なブームを巻き起こした。

日本では手に入りにくかったため、『週刊現代』に読者サービスとして輸入代行業をやってあげるから、欲しい人は編集部にハガキをくれとやったら、話題になるのではないかとサジェッションした。

すると想定外の反響で、1万数千ものハガキが来て、編集部は悲鳴を上げていた。

人類史上例を見ない性生活への関心の高まり

翌年、日本でも販売が始まった。ホテルを取り、彼女を待つ間にバイアグラを飲んだが、結局、彼女は現れず、一晩中勃起したムスコを眺め悶々としていたという「悲劇」があちこちで起きた。

今ではバイアグラ以外にさまざまなED薬があり、24時間立ちっぱなしという注射を打ってくれる医療機関まである。

バイアグラなどのED薬は高齢者の性生活を大きく変えた。昔は還暦過ぎてSEX(セックス)の話をするのは、よほどの好色ジジイだけだったが、今では年金が出たその日に、高齢者たちが、吉原などのソープランド街に朝から列をつくる光景は珍しくない。

老人ホームでは、後期高齢者の三角関係のもつれから刃傷沙汰が起きる。ラブホテルを朝から占拠するのは高齢者カップルたちである。

人類史上例を見ない高齢者たちの性生活への関心の高まりを、優秀な週刊誌編集長が見逃すはずはなかった。