例えば、人件費削減によって人が減るということは、1人当たりの生産性を高める必要があるということだ。統合によって業務量も増えている。必然的に社員の仕事の負荷は高くなる。それを乗り越えるには、残った社員のやる気を引き出し、人の力を解き放たねばならない。どちらの社員も互いに気持ちよく働いてもらい、最大のパフォーマンスを発揮できる環境を整えねばならない。ただ統合するだけではなく、人の交流が行われ、業務プロセスが変わることでシナジーは生まれてくるからだ。
こうした視点から考えると、まず大事なことは「なぜ統合するのか」についての意識統一だろう。これには3段階ある。
第1に、経営トップのCEO(最高経営責任者)2人の意識統一が必要。次いで、経営陣の意識のすり合わせを行う。それは単に仲よしになるということではない。経営環境に対する認識を一致させ、統合後もブレないことがポイントになる。
これを統合前にやらないと、統合の目的が従業員に浸透していかない。最後に、現場レベルの意識統一であろう。それでも、ビジネスに対する考え方も仕事のやり方も違う2つの企業が一緒になる以上、各段階での意識統一には、プレスリリース後、数カ月から1年以上かかることもある。この時間をいかに短縮し、シナジー実現のための戦闘体制に入れるかどうかということが重要なポイントになる。
各部門代表が集う「ミニ新社」に成功がかかっている
この間にやるべきことは、企業文化や業務プロセスの統合に向けた具体的な道筋をまとめることだ。統合推進委員会を立ち上げ、製造や営業、人事、IT、財務などの小委員会を設けて両社の精鋭を集める。この小委員会の構成は、新会社の経営体制の擬似形、“ミニ新社”といってよい。小委員会は5人から最大でも15人で構成し、それを少なくて5つ、多くても10つくる必要がある。単純計算すると推進委員会のメンバーには最低25人から最大150人の人材が必要になる。
小委員会の活動で重要なことは、カルチャーインテグレーション(企業文化の統合)である。世の中には、100点満点の会社も0点の会社もない。お互いの強さを活かしてシナジーを出すには、仕組みがいる。それが企業文化の統合というプロセスなのだ。これは統合プロセスの中で1番難しい仕事だが、ここを乗り越えない限り、一緒に住んでいても口はきかないという“家庭内離婚”のような状態が続いてしまうだろう。
企業統合では、センシティブな状況が生まれ、人間の心理として普通に人が知り合う場面よりも緊張感がある。それだけに小委員会ではまず、初対面で名前と顔を一致させ、相手の考え方を理解し、趣味の話などで人柄を知るという、人間同士が知り合うプロセスをきちんと踏むことが大事になる。