日本発の開発支援ITはどこに必要か

以上のように、日本の自動車メーカーに普及した欧米発CADは、確かに構想力、互換性、機能性において優れた面も多いが、概して分業型であり、日本企業の統合型製品開発の組織能力とはしっくりこないところがある。とくに、緊密なチームワークがもっとも要求されるのは、機能設計と構想設計の間を往来しつつ「連立方程式」を解く基本設計・構想設計段階において、日本の設計者が得意とするチームワークを支援するITが欠けている。このことは、以上の論者に共通の認識といってよかろう。

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それではどうするか。決定版といえる答えはないが、現状ではいくつかのパターンが見られる(図)。(1)追随:欧米発CADを現実として(全面的あるいは選択的に)受け入れる。比較的小さな企業に見られる選択である。(2)矯正:欧米CADメーカーに改善要求を出して言うことを聞かせる。これは力のあるトップ企業にのみ可能な選択だが首尾よくカスタマイズできる保証はない。(3)対抗:欧米発CADに対抗して日本発の使い勝手のよい標準CADを立ち上げる。正攻法だが、もはや時期を逸した感もある。(4)補完:欧米発CADを受け入れたうえで、ITと組織能力の接点にあたるインターフェース部分のIT(例えば基本設計段階を支援する協調型のビューワー)は日本発で開発する。

どれを選ぶかは、当該企業の規模、組織能力、戦略、組織風土などにより異なるかもしれない。しかし、以上の議論を踏まえて言うなら、筆者は(4)の道を探索すべきではないかと考えている。

いずれにしても、開発支援ITは、今や開発競争優位を確保するための必要条件である。しかしそれは、十分条件ではない。ものづくりの能力構築と整合的でないITへの依存に対しては、我々は慎重であるべきだ。

競争優位を得るために、どれほど先端的なITが必須であるのかは、実のところはよくわからない。実際、過去数年の日本メーカーによる成功モデルを通観すると、確かに先端的ITを駆使したケースもあるが、例えばソリッド・モデルにあまり依存しないシンプルなCADを使いながら、立派な成果を出した直近の成功事例もある。

さらに言うなら、実物試作・実験からデジタル仮想開発への移行を拙速にやると、使用環境条件の見落としや、評価項目の見落としから、不具合や商品力低下に結びつきかねない。リアル開発からデジタル開発へのシフトは時代の必然だとしても、そのためのバトンタッチゾーンは相当長く取るべきだと筆者は見る。

先端的なものづくり支援ITの導入は時代の流れである。しかしそのITはあくまでも、長期的なものづくりの能力構築と整合的なものであってほしい。

(尾黒ケンジ=図版作成)