2015年9月29日。佐山と市江のツートップ体制による新経営陣がスタートする。ANAからは取締役が2名参画した。

市江正彦は日本政策投資銀行の常務から、55歳で投資先であるスカイマークの社長に「片道切符」で着任した。前職では、ベンチャー育成や企業再生に関わり、2008年の同行完全民営化に際しては、新しいビジネスモデルの構築を主導した。エリートでありながらベンチャー志向の、本人曰く「変わり者」。佐山は新社長と連れ立って全国の支店を回り、市江は「骨を埋める覚悟で来ました」と挨拶した。このとき佐山は、社員の表情が2月に比べて明るくなったことに気づいている。

スカイマーク社長 市江正彦氏

佐山は毎週月曜日に社内イントラネットでメッセージの配信を始めた。前の週に訪れた支店での出来事や、社外交渉、メディア発信など、佐山のトップとしての仕事を紹介する。そのメッセージのヘッダーには、佐山の個人メールのアドレスと、ケータイ番号、そして赤い字で「何でもご遠慮なく直接ご連絡ください」と書き添えた。また、支店に行くたびに懇親会を開いて社員と一緒に酒を飲んだ。

市江は社員と1対1で30分の面談を行い、約200人から「この会社をどうしたいのか」を聞き取っていった。

佐山と市江は、新体制は「話を聞く」体制だということを徐々に社員間に染み込ませていく。この「風通しを意識した」と市江は言う。

「ちょっと気づいたことを言えるかどうかが重要なんです。航空業は、1に安全、2に定時性、3が経済性です。時間通りに運航するとお客様は選んでくださる。でも、ともすれば時間を優先するあまり、安全をうっかりすることがありえます。そんなときに、気がついた人がもう一度ちゃんと見ましょうと声を出して言えることが大事。上司に対してもそれが言える環境にするのは上司の仕事です」