寝る前に数分間「立ち禅」

【石川】その他、ストレス解消のためにやっていることはありますか。

医学博士 石川善樹氏

【川野】ストレス解消ということで言えば……、僕は大学の時に合気道をやっていました。でも合気道というのは試合もなければ、関節を決められると痛いし、むしろストレスでした(笑)。

【石川】合気道って、試合がないんですか?

【川野】流派によっても違いますが、基本的に試合はありません。

【石川】本当に、技を極めて道を探求するものなんですね。

【川野】そうですね。「かかり稽古」という、胸ぐらを掴まれた時にどのように対応するかを条件反射的に出せるよう、ひたすら掴む側と掴まれる側をぐるぐる交代して練習します。「演武」といって技を見せ合う種目もありますが、それも勝ち負けが決まるわけではない。他にも四股を踏んだり、丹田で呼吸をするという呼吸法をしたり、立禅を組んだり。立禅は何分やるかわからないのですが、いつ終わるかを気にすること自体がダメで、自分の呼吸にだけ集中しなければならない。当時はすごくイヤでした(笑)。

【石川】終わりがないんですね。

【川野】ただ考えてみれば、ストレスというのは同じことが頭の中で巡ることなので、それを一回断ち切る上では非常にいいと思い、最近は寝る前に5分程度、立禅をしています。

目の前の仕事に集中することで「無限ゲーム」を続けられる

【石川】今の話を聞いていて思い出したのが、「有限ゲーム」と「無限ゲーム」という心理学の話です。有限ゲームというのは勝ち負けとか終わりがある闘い、無限ゲームというのは終わりがない闘いで、どちらかというと男性は有限ゲームが得意で、女性は無限ゲームが得意だと言われています。この分類でいくと、ビジネスは有限ゲームというよりも無限ゲームであり、終わりがあると思うとそこに向けて無理しがちにもなるんですけど、無限ゲームだと思うと先ほど川野さんが言ったように、今目の前のことに集中するしかないから、ずっと続けることができる。スーパーという業界は長いトレンドで変化が見えにくいので、お客さんという目先に集中するしかないのではないかと思いました。そういう意味でも、結果的に合気道も社長業のいいトレーニングになっているのかもしれませんね。

【川野】今になって思えば、そうでしょうか(笑)。

【石川】立禅を最近やりはじめたきっかけは、何かあったのですか?

【川野】やはり、日々悩むことも少なくないですし、寝るのもすっきりしなかったり、気持ち悪かったりするので、それを断ち切る意味でやろうと始めたものです。もともと私には家業であるヤオコーを継ぐはずの兄がいましたが、小さい時に数年前に亡くなってしまった。兄が生きていれば、今の自分はいないと思いますが、ある意味で運命ではないかと思うこともある。だから、悩みがあったり、大変だったりするけれども、それは神様に与えられたものだから、仕方がないのではないかと心を整えているという側面はありますね。

【石川】ストレスがあった時に、誰かのせいにしたり自分の弱さのせいにしたりすると余計に辛くなる一方で、運命のせいにできる人はストレス耐性が強いと言われています。病気になった時にも、「これはもう神様からの試練だ」と思える人は、回復も早い。反対に、「なぜ自分が病気になったんだ」「なぜ自分ばかり」と被害者意識を持つと回復が遅くなるという研究もあります。(後編に続く)

石川善樹
予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部を経て、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。専門は行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析など。株式会社キャンサースキャンおよび株式会社Campus for Hの共同創業者。ビジネスパーソンを対象にしたヘルスケア、ウエルネスの講演・執筆活動を幅広くおこなっている。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『友だちの数で寿命はきまる』『最後のダイエット』(ともにマガジンハウス)、『健康学習のすすめ(理論編)』(日本ヘルスサイエンスセンター)などがある。
 
(撮影=永峰拓也、河西遼、高橋健太郎)
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