火星の居心地がいい理由
なぜ火星か、理由は単純明快。ご存知の通り、近隣の惑星に比べると距離が“近い”上に“地球に似ている”からだ。
7000万km以上という距離があるとはいえ、ほかの惑星よりも渡航時間が短いため、宇宙で浴びる放射線量が抑えられる。さらに固体ながら水が存在し、二酸化炭素も豊富で植物も育ち、地中には窒素やリンといった生命に必要な元素もある。ただし、酸素は存在しないため、どうしても酸素を供給する設備や宇宙服は必要になる。
火星が赤く見えるのは、岩が酸化鉄を多く含んでいることが理由であり、“火星”の名とは裏腹に表面は冷えていて、決して熱くない。場所にもよるが、平均気温は-(マイナス)50度。赤道あたりは最高20度くらいになりながら、日没後は-90度の地域もあるとの説もある。
「平均気温-50度で人は生活できるのか?」との疑問が湧くかもしれない。けれども、気象庁のデータによると、ロシアのオイミャコン村の冬の平均が-46度前後で最低が-71度、シベリア内陸部平均が-50度。北海道の旭川ですら最低気温-41度を記録している。自分の街で思い描く“普通の生活”とはいかなくとも、充分に人間が暮らせる気温ではありそうだ。
今の火星の表面には液体の水が流れる海や川はなく、氷やドライアイス様のものがあるだけだ。ところが、水が流れて浸食したような地形が数多く残されているとNASAが発表している。火星の直径は地球の約2分の1で、重力は3分の1程度と小さいため、水が蒸発して宇宙に逃げたか、地球よりも寒冷な気候で地下に氷結してしまったものと考えられている。NASAの主任科学者のスティーブ・スクワイアーズ教授(コーネル大)は、「(今回の調査地点は)過去のある時期、生物の生存に適した場所だった」とした。
さらに火星が寒くても過ごしやすい理由として、1日の長さが地球とほぼ同じ24時間37分だということがあげられる。四季もあり、月よりも地球環境に近く、金星や水星のように暑すぎない。ただ、地球と大きく違うのは“空がピンク色”なこと。青い空がのぞめない環境をどう受け止めるかは、適応問題として案外大きいかもしれない。
それでも、現段階では火星がもっとも“居心地がいい”理想的な惑星というわけだ。では、いざ火星へ……となったら、お値段はどのくらいかかるのだろうか。