欧米で確立している「ダークミルク」を日本へ

「ところが、豆だけができても、明治として訴えたいものが分散してしまっていたんですよ」と、菓子マーケティング部専任課長・佐藤政宏さんが話を引き取る。旧ザ・チョコの物質的価値や商品のコンセプト、そしてベネズエラ・ブラジル・ドミニカ産といった、消費者に馴染みの薄い特別なカカオ。「市場を見ていなかったんです。こだわりのビターを3種類も出しても、市場ではミルクチョコレートの販売金額が65%と圧倒的。もともと食べてくれる人が少ない所に商品を何種類も投入していたのです。ビターだけではだめだ、これはミルク系ユーザの獲得を図らねばならないということになりました」。

世界のBean to Barに目を向けると、その答えとなる領域は既に存在した。カカオの香りとミルクの濃厚さを両立し、かつ甘さ控えめな大人のミルクチョコレート。「ダークミルク」というカテゴリだ。

ザ・チョコのリニューアルにあたり、「大人に受けるゾーンとして、ミルクでもビターでもない『ダークミルク』を日本に定着させたい」と社内に持ちかけたが、会議は難航する。「カカオ推しだが、ミルクチョコとしても味が楽しめる」との主張も、「現行の明治の看板であるミルクチョコレートを美味しくすればいいじゃないか」「カカオを一生懸命頑張ったブランドなのだから、ミルクなんて要らないだろう」と、さまざまな反論を浴びた。

「最後までダークミルクを主張したのは、僕一人でした。(ダークミルクよりもさらに甘くない)チョコレートにミルクだけで砂糖なし、というアイデアも僕はやりたかったくらいです」と宇都宮さんは振り返る。いずれにせよ、新しいザ・チョコは新カテゴリであるダークミルクを旗印として、ビター2種類+ダークミルク2種類、合計4種類のラインアップとした。大切にしてきたカカオを味わってもらえるよう、通常のチョコに比べて砂糖は半分程度、香料は一切使わず、従来のチョコなら常識ともいえる天然バニラさえも入っていないという潔さだ(※)。青いコンフォートビターとオレンジ色のエレガントビターはビター陣としてそれぞれカカオ分70%、紫のサニーミルクと赤いベルベットミルクは、ダークミルク陣としてそれぞれカカオ分54%と49%である。

※2016年11月に後続で発売された「ジャンドゥーヤ」と「フランボワーズ」には、フレーバーが少量使われている。

リニューアルしたザ・チョコは、旧製品の反省を踏まえ、ビター系2種(青、オレンジ)、ダークミルク2種(赤、紫)のラインアップで発売した。その後「ジャンドゥーヤ」(ナッツ系、緑)、「フランボワーズ」(ベリー系、ピンク)を1種ずつ追加し、現在は計6種の展開。

その後、ザ・チョコはブリュッセルに本部を置くiTQi(国際味覚審査機構)で2つ星、インターナショナルチョコレートアワーズでアジアパシフィック部門ゴールド賞などを受賞。世界からもその質の高さを認められることとなった。