パニックにならない「事前分析」
「ストレス下で完全に失われるのは、合理的で論理的な思考」だと、前述のレヴィンティン氏。それは本能により、たとえば動物に襲われたときなど恐怖のストレスから逃れて生き延びるためだという。だから制御不能になる前に、自分に起こりうる失敗など、パニックを起こすような場面を考えて対処しておくと安心だ。
まず「誰にも欠点がある」と認識して、自分が起こしうる失敗をあらかじめ考えて、損害を最小限に食い止めるために、「どんな失敗が起こりうるのか“事前に分析しておく”といい」という。
人は誰でも失敗をするものだから、いくつかは想定されるだろう。そこから、失敗をしないようにする対処と、失敗をしたときの対処をあらかじめ考えておくわけだ。
たとえば質疑応答で聞かれるであろうこと、突っ込まれることなどを、いかようにも返事ができるよう、5つほど頭の中で回答の対処ボックスを用意しておくだけだ。プレゼンのときにプロジェクタが動かないなどは、よくある “想定内”として、そんなときは機材を使わずに乗り切れるという心構えだけで余裕が生まれる。
「ストレスは害にもなる」という認識は必ずしも間違いではないが、そこに例外はある。ストレスのいい面と悪い面を認識して「怖がる」「萎縮する」ことを避け、あえていい面を生かすように心がけたい。
「もっとも効果的な方法は、自分の個人的な強みを認識すること」とマクゴナガル氏は著している。
自分がしてきた準備に自信を持ち、過去にうまくいったことを思い返したり、自分を支えてくれる人たちを思ったりするだけで、思考がすばやく転換して「チャレンジ思考」になるという。
これで、スポーツ選手が試合で発揮する集中力のように、ストレスがあるからこそ自分の力を最大限に引き出せるはずだ。
[脚注・参考資料]
「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」ケリー・マクゴニガル(著),神崎朗子(訳)2015, 大和書房
Daniel Levitin’s , How to stay calm when you know you'll be stressed, TED talk, 2015