このアグレッシブな拝聴の姿勢は、社内でも有効なのは言うまでもない。上司や幹部との初の打ち合わせで「大きな返事と相槌」によって、顔と名前を覚えてもらえば、例えば、社内の喫煙スペースや自動販売機などがある休憩エリアで偶然会ったときに話しかけてもらえるかもしれない。第一印象がよいと、こうした予期せぬ人との確実な接点をつくることもできるのだ。
一方、前ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント社長で同グループの証券・資産運用会社での20年以上の経験を生かし『絶対話力』を執筆した土岐大介氏は、顧客の第一印象を向上させるために「自己紹介力」を強化するべきだと言う。土岐氏は語る。
「何の営業であれ、先方は最初、何を売りつけられるんだろう、騙されないようにしないと、と少し身構えているものです。その鎧を上手に取り除くトークができれば、『また会ってもいいかな』と思ってくれるでしょう。それを成功させるためのキーポイントは、誠実さ。なんとか相手のお役に立ちたい、という気持ちです。今さら誠実って言われても、手垢のついた言葉に感じるかもしれませんが、結局のところ、これに勝る武器は見当たらないのです」
第一印象で誠実さを見せるにはどうすればいいか。土岐氏によれば、まず相手に最大限の敬意を示すことだ、と言う。例えば、綿密な事前の下調べ。訪問する企業の社長の著書やブログなどを必ず読んでおく。以前に会社同士の取引があれば、自分が初対面でも上司や先輩、同僚などがすでに会っているので、事前に情報を教えてもらったり、引き継いだりしておく。また、相手の会社の業績や商品・サービス内容、担当者の出身地、出身大学・高校、家族構成、趣味、共通の知人の有無など可能な範囲で情報を集めてインプットしておく。そうすれば、名刺交換の際に効力を発揮することは間違いない。
話が膨らめば相手は自分に興味を持ち、自分の記憶を残せるかもしれない。
「名刺を渡すだけの素っ気ない挨拶・自己紹介では、相手に何のインパクトも与えられません。さらに面会してすぐに自社の製品のチラシを取り出して、その説明などしてしまったら、相手は嫌な顔をするに違いありません。でも、下調べをできるだけしたうえで、『本日は初対面ですので、ご挨拶だけでございますが、御社の状況などを踏まえ、私なりに1枚だけご提案書をお持ちしました。お役に立つかわかりませんが……』と低姿勢に提案書という“お土産”を差し出せば、少しは聞く耳を持ってくれるはずです」(土岐氏)