賃金引き下げに同意するハンコは無効
さらに原告が労働条件に合意していることについても「雇用契約書を提出しなければ就労できなくなるのでやむを得ず提出する旨を明らかにしていたのであるから、原告らが労働条件を理解した上で雇用契約書に署名押印したことをもって、特段の事情があるということはできない」と、被告の主張を斥けている。
賃金引き下げに同意する判子を押していても、定年前後の職務内容などがまったく同じである場合は、賃金差を設けることは許されない。
今回の判決は他の継続雇用で働いている人にも影響を及ぼすことは間違いないだろう。
もし裁判に持ち込まれた場合、会社は職務内容などと賃金の関係の合理的説明が求められる。
だが、実態は再雇用者の全体の人件費をどうするかを考えて、月給やボーナスを定年前の半分程度に減らし、国が支給する高年齢者雇用継続給付金などの助成金を加えて7割程度にしている企業が多いのではないか。
また、「どういう根拠で半額にしているのかは極めて曖昧だ」(食品会社人事担当者)との声もある。
実際に定年後再雇用で雇用継続された人の不満は強い。
労働政策研究・研修機構の調査(「60代の雇用・生活調査結果」2015年1月)では、賃金が減少した人のうち「雇用が確保されるのだから、賃金の低下はやむを得ない」が48.5%と最も高い。
だが「仕事がほとんど変わっていないのに、賃金が下がるのはおかしい」(30.2%)、「会社への貢献度が下がったわけではないのに賃金が下がるのはおかしい」(20.6%)という不満も渦巻いている。