世界で戦うために「漢字」を強調しない
【弘兼】無国籍なのはワインにも共通するのでしょうか。ケンゾー エステイトのワインは、「藍(あい・ai)」や「紫鈴(りんどう・rindo)」など、英語としても発音しやすいものが多い。
【辻本】そうですね、そもそもワインの名前に漢字を使うかどうかは、最後の最後まで悩み抜きました。最初は英語の名前にしようと考えていましたが、デイヴィッドとハイディに「日本人は英語を話さないのだから、日本語の名前にしたらどうか」と言われ、漢字を使って名前をつけました。ただ、ボトルを見てもらうとわかりますが、紫鈴のボトルには「rindo」とローマ字で名前が入っています。そして、その下の余白に「紫鈴」という漢字名がボトルの角度を変えると浮き出るようになっているのです。
【弘兼】(ワインを手に取りながら)これはサッと見る限りだとわかりませんね。
【辻本】漢字を前面に出すとオリエンタルなものになってしまい、受け入れの幅が制限されてしまう。これはゲームで学んだことです。
【弘兼】やはりゲームとワインは、ともに、シナジー効果というか、共通する点はあるのですね。
【辻本】ブランドを育てるための心構えにしても同じです。アメリカで通用するものを造るためには、まずは現地でアメリカ人の気持ちを持って仕事をしなければならない。
【弘兼】1年にどのくらいの時間をアメリカで過ごしているのですか。
【辻本】年間の20%はカリフォルニアにいます。残りの80%は東京と大阪で半々といったところです。3拠点のどこにいるときも、「自分の街だ」と思いながら過ごす。私には故郷が3カ所あるんですよ。
【弘兼】とはいえ日本とカリフォルニアには時差があるから、両立は大変でしょう。
【辻本】休みはありませんよ。日本にいるとき、平日は朝から晩までカプコンの仕事、平日の夜と土日は個人事業のワインの仕事と区切っています。50代に社長をしていたときよりも働いていますね。
【弘兼】そのように懸命に働かれた先に描く、今後のカプコンのビジョンについて教えてください。
【辻本】今売れていても、いつまで続くかは保証されるものではない。時代の移り変わりとともに何が求められるかはコロコロ変わるものです。だから結局、常に次のことを考えていく。これだけですよ。ワインについては、350年続いている日本酒の蔵元があるので、少なくとも350年は続けていきたいと思っています。