【みうら】「自分をだます」みたいなことですね。人を説得するには自分をまず説得する必要があるわけじゃないですか。「自分のやっていることはこんなに面白いんだ」っていうことを伝えるためには、自分自身が完璧に洗脳されてないといけないんです。

【為末】自分が嫌になっていてもね。

【みうら】むしろ「嫌だな」というところからですね。東京タワーのペイントされた掛け軸とか、ヘン顔のひょうたんの人形とか、なぜそんな写真をと思うような絵葉書とか、もらっても全然うれしくない土産物って全国各地にありますよね。実は僕は「どノーマル=どN」な人間なので、そういうサムいものに人一倍敏感なんです。サムすぎて逆にすごい存在感のものにクラッとくるんです。うわあ、こんなのもらったら嫌だなあって。それを「いやげ物」と名付けて買い集めていたんですが、最初は2000円出すのも嫌だったんですよ。それがだんだん平気になってきて、万を超えないとショックを受けなくなってきた。

一番左がラブドールの絵梨花さん(70万円)

【為末】そこでハードルを上げるわけですね。

【みうら】そのハードルを(笑)もう、これだと思ったものは見た瞬間に掴んで何も考えずにレジに運ぶという訓練をずっとしてきました。値札も見ずに木彫りの不細工なヴィーナスをレジに持っていったら「4万5000円です」とか言われてね(笑)すごいショックなんですけど、ハードルが一段上がると「跳んだ」感じがするんですね

【為末】「乗り越えたんだ」と。

【みうら】そう。いま為末さんの横に座っている(ラブドールの)「絵梨花さん」もね、70万もするんですけど、そういう無駄なものに対して70万円も払っている自分に対してすごいグッと来るんですよね(笑)

みうらじゅん 
1958年京都市生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、漫画家、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなどとして幅広く活躍。著書に『アイデン&ティティ』、『マイ仏教』、『見仏記』シリーズ(いとうせいこうとの共著)、『人生エロエロ』、『正しい保健体育 ポケット版』など。最新刊は『ない仕事の作り方』。音楽、映像作品も多数。1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。2005年 日本映画批評家大賞功労賞受賞。 
為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。http://tamesue.jp
(大矢幸世=構成 遠藤素子=撮影)
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