決算を操作しても経営はよくならない
しかし粉飾を繰り返した企業は、いつか必ず破綻する。企業側の手口が巧妙化しているとはいえ、「目利き力」に優れた金融マンが早い段階で粉飾を見破り、状況を好転させることもある。ある地銀の支店長は、融資先である洋菓子メーカーの開店祝いに届いた花輪をみて「残表に載っていない他行の名前がある」と気付き、粉飾の事実を突き止めた。金融マンには些細なシグナルを見逃さない「目利き力」が求められる。
決算書に現れる不自然な兆候からも不正を見抜くことができる。在庫や、売掛金の回転期間、支払い金利、キャッシュフローの異常値には注意が必要だ。特に在庫は目に見えるものなので、倉庫を確認するといい。
不正会計を外から止めることはできない。東芝のケースをみても、社外取締役や監査法人は抑止力として機能しなかった。談合や贈収賄、脱税には厳しい罰則もあるが、「やるときはやる」というのが実態だろう。罰則や損害賠償がさらに厳しい海外でも、不正会計はなくなっていない。不正会計を止めることができるのは、経営者の自制心しかない。
依然として「いずれ利益が出たら帳尻をあわす」といった甘い判断で会計を操作する経営者は少なくない。だが、幹部や社員と自社の状態を正しく共有できていなければ、経営再建などできるはずもない。不正会計が一度でも発覚すれば、企業の信用は一気に地に落ちる。そのリスクを正しく認識するべきだろう。
利益至上主義の経営では、不正会計への誘惑も強い。誘惑を断ち切るには、その対極ともいえる日本の老舗経営にヒントがあるように思う。「100年企業」では「番頭」の役割が欠かせない。副社長や専務といった役員とは異なり、経営者に寄り添いながら、あるときには「耳の痛い」ことが言える。老舗には必ずそうした「番頭」がいた。「番頭」がいるかどうかで、その企業の経営姿勢をはかれるかもしれない。
※1:2014年7月1日から2015年8月14日までの1年間に「不適切な会計処理」として東京証券取引所で適時開示を行った企業は、東芝、LIXILグループ、東邦亜鉛、伊藤忠商事、KDDI、バリューHR、積水化学工業、虹技、日本道路、オカモト、タカラトミーの11社。
※2:東芝の「第三者委員会調査報告書」(2015年7月20日)では「A案件」とされているもの。報告書ではAからOまで15の案件に整理している。