誰のための第三者委員会か

このような事態が生じている根本的な原因は、東芝の第三者委員会が一体いかなる目的でいかなる性格の組織として設置されたのかが不明だということである。

設置の時点では、日弁連第三者委員会ガイドラインに準拠した委員会とされていた。同ガイドラインは、基本原則として「第三者委員会は、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表する」と規定している。ところが、公表された報告書には、「本委員会の調査は、東芝から委嘱を受け、東芝だけのために行われたもの」と明記されている。

また、ガイドラインでは、「第三者委員会は、企業等と協議の上、調査対象とする事実の範囲(調査スコープ)を 決定する。調査スコープは、第三者委員会設置の目的を達成するために必要十分なものでなければならない」とされているが、東芝の第三者委員会の調査対象は、報告書によると、「東芝から当委員会に委嘱された委嘱事項」とされており、委員会側が調査対象の範囲の決定に関わった形跡はない。会計監査人の監査法人との関係という問題の核心を調査対象から除外したことについても、「委嘱事項ではない」ということで済ませてしまっているのである。

要するに、「第三者委員会ガイドラインに準拠する委員会」との外形をまとっているが、その実質は、独立の立場で、主体的に当該不祥事についての調査検討を行う委員会とはおよそ似て非なるものなのである。

このような第三者委員会報告書をベースに再生を進めようとしていることで、東芝の今回の問題をめぐる混乱はますます深まったと言わざるを得ない。

[参考資料]
第三者委員会調査報告書<全文版>
http://www11.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150721_1.pdf

郷原信郎(ごうはら・のぶお)●弁護士、名城大学教授・コンプライアンス研究センター長
1955年、島根県生まれ。77年東京大学理学部を卒業後、三井鉱山に入社。80年に司法試験に合格、検事に任官する。2006年に検事を退官し、08年には郷原総合法律事務所を開設。09年名城大学教授に就任、同年10月には総務省顧問に就任した。11年のオリンパスの損失隠し問題では、新日本監査法人が設置した監査検証委員会の委員も務めた。『「法令遵守」が日本を滅ぼす』『検察の正義』『思考停止社会 「遵守」に蝕まれる日本』など、著書多数。
▼郷原総合コンプライアンス法律事務所 
http://www.gohara-compliance.com/
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