多様性をうみだす、やわらかいカオス
【佐々木】グーグルに入社したての頃、同僚に「この仕事はどうやるの?」と質問したら、「検索すればでてくるよ」と言われるだけで、誰も教えてくれないんです(笑)。そんな“カオス”な状況に放り込まれるわけですが、当時よく言われたことは、「他と同じことは一つもないから、今までやってきたことは忘れなさい」。僕はそういう環境を楽しめるタイプでしたが、一方で、過去のやり方や常識をなかなか忘れられない人もいて、「これって、普通はこうやるんですよね」「いや、グーグルでは違うんだよ」ということを理解するのに苦労していました。
【若新】僕は、若者を対象にしたマニアックな採用サービスを色々やっていますが、彼らを集めてワークショップするときに重視しているポイントの一つが、まさにいま佐々木さんがおっしゃったこと、「アンラーニング」です。日本語では「学習棄却」とも言いますが、つまり、過去の成功経験やスキルに縛られないということです。「僕はこれが専門です」とか「こういう経験をしてきた」ということではなくて、「僕はこれが好き」とか、「これに興味がある」といった抽象的な思考や価値観を共有することで、お互いのことをよく知り、関係を深めることができます。
そしてもう一つは、「やわらかいカオス」です。もちろん、人を傷つけてしまうほどの凶暴なカオスはダメですが、なんとなくゆるくつながりながらも、発言する順番などのルールを決めずに、好き勝手にしゃべれるような状態を心掛けています。
「ゆるい就職」では宇佐美啓さん(「ゆるい就職」の運営会社ビースタイルのマネージャー)が、数カ月かけて参加者たちによる「やわらかいコミュニティ」を運営してくれました。必要な情報提供やサポートは行うが、議論や企画は参加者に任せていく。すると面白いことに、普段はあまり人前でしゃべるのが苦手な人も、メンバーとの議論に参加するようになったりします。段取りが細かく決まっている環境よりも、「ぐちゃっ」としたカオスの状態のほうが自分を生前に表現できるみたいです。
【佐々木】それ、よくわかります。うちの会社でも、Googleドキュメントに「こういうことをやろうと思っているが、どう思うか」と意見を募ると、たちまちコメントが集まります。誰でも平等に書き込めるので、活発な議論ができるんです。普段はあまり話さない人でも、こういう“ぐちゃっとした場所”だと意見が言いやすいようですね。
【若新】組織が人材の多様性を活かすには、本当に大切なことだけしっかり決めて、あとは自由な議論や発信ができる「ゆるさ」が必要ですね。