不満を抱えたチームのほうが、成果を上げる?
社会心理学と組織心理学の研究者で元ハーバード大学心理学部教授のJ・リチャード・ハックマンは、チームワークは万能薬ではないとしている。多少不満がくすぶっていたり、ちょっとした問題児がいたりするチームのほうが優れた成果を上げるというのだ。
交響楽団に行ったある実験で、全員が不満もなく調和している楽団よりも、多少の不満を持った楽団のほうが、よい成果をもたらしたという。なぜか? 楽団にとっては、よりクリエイティブな活動をして成果をあげ、そこに評価を得ることが何よりも重要だからである。つまり、楽団の雰囲気がいいことよりも、よい演奏をして評価を受けるほうが、満足感を得られるという因果関係があるのだ。
チームに満足できないものは、和を乱すことも考えられるが、改善しようという意識も働くかもしれない。そこに生まれるチーム内の葛藤が、全体をよりよい方向に導いていく。素直にすべてを受け入れて動く人物は和を保つには大切ながら、「なぜそうする必要があるのか」という疑問を呈してくれる“異端者”もまた、重要な存在だ。スムーズに話を進めることを妨げるいわば“妨害者”たる人物であり、チームメンバーの不安やいらつきのレベルをマックスにする存在。
だが実は異端な考え方が、より革新的な作業を生み出す傾向にあるようだ。ハックマン氏によれば「それは、ボートが流れの中をゆったりとたゆたう中で、立ち上がり『舵をとって、方向を変える必要がある』と意見が出せる人間なのだ」とたとえている。
ではリーダーの仕事はといえば、メンバーの不満を無くすことではなく、メンバーからの不満を恐れず、常に高い目標を掲げてチームをまとめあげ、ひとつの方向に向かわせること。そして、達成感を味わってもらうことで、より強固なチームワークを構築していくことというわけだ。
さて、マシュマロタワーのチーム作業にもどって学ぶべきは、幼児の“試行錯誤”と“チャレンジ精神”である。さらに複雑な思考を要すときには、タワー作成の短時間では邪魔になったMBAホルダーたちの意見を交換する姿勢も必要となるだろう。自分の思考、感性、行動などのすべてを投入し、周囲とコミュニケーションをとりながら問題に取り組んだ上で試作を行うこと。これが、チームとしての取り組みに大きな変化を起こしうるのだ。
[脚注・参考資料]
Tom Wujec, Build a tower, build a team, TED, Filmed Feb. 2010
Diane Coutu, Why Teams Don’t Work? , Harvard Business Review May 2009 issue.