TPPはオバマ大統領の決断次第

【塩田】アメリカは欲をかきすぎているということですか。

【齋藤】この際、一気に取ってやろうという気持ちはわかるけど、まとめることも大事です。がめりすぎずに、TPPをつくり上げることの重要性をもう少し認識してほしい。向こうは利益の話、こちらは将来の生存に関わる話ですからね。もう少し全体を考えてほしいと思います。大統領がTPAという交渉権限を米国議会から獲得できていない状況で、あれやれこれやれと言ってくる。そのことだけでもアメリカはやりすぎだと思いますよ。TPAを取れば、話は別ですよ。TPAも取らないで、われわれが妥協できると思うのかと言いたいですね。

【塩田】TPA(貿易促進権限)は、アメリカの議会が大統領と外国政府との通商合意について個別の内容の修正を求めずに一括して承認する制度で、議会で少数与党のオバマ政権は、この権限を得なければ、通商合意に進むことは不可能です。オバマ政権のTPPに対する姿勢をどう見ていますか。

【齋藤】そこはわかりません。だけど、向こうもようやく本気になってきたと思う。オバマ大統領もいずれ選択を迫られる。1つは、TPPを実現できなかった大統領というマイナス評価、もう1つは、妥協してまとめたけど、こんなに妥協したと言われるマイナス評価。オバマ大統領は今年の夏までに、どちらを取るかという究極の選択をしなければいけないという展開になる。だから、日本にとっての交渉ポジションは決して悪くない。妥協しなければならなくなるのは向こうだと思いますよ。

【塩田】安倍首相が5月に訪米する計画が浮上しています。そこまでに進展は。

【齋藤】アメリカ次第ですね。ですが、向こうの様子がよくわからない。私も過去の通商交渉で経験しましたが、アメリカが、何が何でもまとめるという気になり、まとめるという決断をすれば、一気にいろいろなカード切ってきます。私はやれる道は見つかると思っています。なぜなら、向こうのほうが追い込まれているから。

日米交渉を経験して思うのは、交渉は協議内容が縮まってきたからまとまるというわけではありません。まとめなければいけないと思うと、離れていても一晩でまとまる。今、まとめると損だ、まだまだ時間があると思ったら、どんなに協議内容が狭まっていてもまとまらない。

今、アメリカは、まとめなければいけないという気運にどんどん近づいています。オバマ大統領は先ほどの二つの選択のどちらかを取らなければいけないから。私は、オバマ大統領は妥協しても交渉をまとめた大統領という評価のほうを取ると見ています。

【塩田】2度目の安倍政権は2年2カ月が過ぎました。どう評価していますか。

【齋藤】非常にセンスがいいですね。消費税率再引き上げの1年半延期もそうですが、目の付けどころも段取りもいいと思います。現実に政権がやれることを考えると、相当いい手を打ってきている。今度の農協改革も成長戦略という点でいい結果が出たと思います。 着実にやっていますね。歴代の政権と比べても、実績を残す政権になるのではないかなと思います。

安倍首相は、こうなったときにこうしよう、それはそのとおりだという反応がすごくいい。自分でずっとものを考えているからだと思います。安倍首相は、先手を打っているんです。農協改革もそうですが、みんながそうだなと思い、時代が煮詰まってやるのであれば、みんな理解するけど、先手を打っている。だから、みんななぜ今こんなことやるのかと思う。