私の考えはこうでした。当時(昭和40年代)は店頭の冷蔵庫が小さかったので、冷やしてあるビールは多くない。そこで別銘柄の注文が入ったときに「アサヒなら何本か冷えていますから、一緒に入れておきましょう」と勧めてもらう。それには、毎日のように酒屋さんに顔を出し、「しょうがないなあ、ちっとは売ってやるか」と言ってもらえる信頼関係を築いておくことが不可欠です。
時は移って専務時代の2002年、私は赤字続きだった子会社のアサヒ飲料へ行くように命じられました。そのとき心に決めたのは、アサヒ飲料が陥っていた苦しい状況を打開するため仲間とともに「考え抜こう」ということ。私は歴代経営者と比べ優れているとは思えませんでしたが、みんなで「できる理由」を考えれば道は開けると思ったのです。
(08年8月4日号 当時・社長 構成=面澤淳市)
小宮一慶氏が分析・解説
「できる理由」を常に考える荻田氏の話からは、前向き思考の重要性を改めて感じさせられる。そこで思い出されるのが、以前に私がお世話になったイエローハット創業者の鍵山秀三郎氏の「頭は臆病だが、手は臆病でない」という言葉である。
人間、机にかじりついて「ウン、ウン」と頭を捻っていたところで、「できない理由」ばかり浮かんでくるのがオチ。しかし、いったん外に出て行動すれば、何か新しいヒントを得たり、問題解決への道筋が見つかってくるもの。そうしたことを教えた言葉なのである。
実際に荻田氏も現場回りをするなかで酒屋との信頼関係を構築しつつ、冷えたビールが少ないという突破口を見出している。また、そうしたお客さま志向の強い荻田氏の言葉だからこそ、それまで「できない理由」ばかりを考えていた部下もだんだんと耳を傾け、重かった腰を上げるようになったのだろう。
1957年、大阪府生まれ。京都大学卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現職。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。