世界でも群を抜く日本の治療数

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意外と知らない肝臓がんの治療費

人体で最も大きな臓器である肝臓は、代謝、エネルギー貯蔵、解毒、胆汁生成などの働きがあることから「化学工場」と呼ばれています。胃、大腸、胆のう、膵臓などの血管を介して肝臓へ行き、その後、全身に回ります。このため、これらの臓器に発生したがんが最初に転移しやすいのは肝臓です。どの臓器で発生したがんが転移したかで悪性度が異なります。

大腸がんが転移した場合は膵臓がんなどに比べて悪性度が低く性質が穏やかなので、外科手術が第1選択になります。ですが、外科手術でがんをすべて取り除いたと思っていても、小さな転移があったりして、術後に再発することも多く、5年間無再発の患者さんは20~30%にとどまります。それもあって体への負担の大きい高齢者は希望しないことが多いのです。

しかし、私はそうした大腸がんの肝転移患者にもラジオ波焼灼術を行っていて、患者の1割が80歳以上です。生存中の患者さんで最高齢は96歳です。96年に83歳で大腸(直腸)がんの手術を受けたものの、1年後に肝転移が発見されて再手術が行われました。ですが1年後にまた肝転移が再発し、年齢的な負担もあるため手術を避けていたのです。その後、ラジオ波焼灼術を知り、私のところに紹介されてきました。がんは3センチメートルを超えていましたが、治療の結果、現在まで13年間再発はありません。

ラジオ波焼灼術の治療数は、世界でも日本が群を抜いています。私はこれまでに延べ約8500例実施しており、おそらく世界一の実績です。ラジオ波焼灼術は、超音波画像でがんを観察しながら、電極針を挿入して焼灼する一見シンプルな治療です。しかし、100分の1、1万分の1でもがんが残存すれば、局所再発を起こします。がん全体を確実に焼灼するには技術と経験、熱意、そして最新の設備が必要です。さらに、事前の治療計画、治療効果の評価、外来での経過観察も重要です。また、他の治療と比べれば安全ですが、ラジオ波焼灼術は合併症や術死も起こりうる治療です。医療機関、医師の間で格差があることも事実なのです。

患者さんにかかる負担が少なく、治療成績も手術に引けを取らないことから、原発性肝臓がんの治療ではラジオ波焼灼術が増えています。しかし、転移性肝臓がんの患者さんにはまだあまり知られていないようです。ラジオ波焼灼術は原発巣の手術後まだ体力が回復していない患者さんや高齢者でも可能です。セカンドオピニオンを求める際の一つの治療法の選択肢として検討することをお勧めします。

順天堂大学 教授 椎名秀一朗
1982年、東京大学医学部卒業。同大医学部第二内科医員、助手などを経て、2004年から同大消化器内科講師を務める。この間に、アメリカで開発されたラジオ波焼灼術の日本への導入を進める。12年12月、順天堂大学大学院医学研究科画像診断・治療学の教授に就任。
(宇佐美拓憲=構成 加々美義人=撮影)
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