君と交わした約束、実現させるよ
さいかち学級では、子供たちが感情の蓋を開けて自分の中にあるものを言葉に表すようになると、その言葉を紙に書いてもらったり、詩として表現してもらっている。子供たちの言葉は様々だ。ポジティブで力強いものもあれば、心の傷の深さがうかがえる壮絶なものもある。
ある子供は、退院時に「先生、僕、やっと人間になれた気がする」と書いた。脳に血の固まりができて突然視野が狭くなり、気がついたら病院のベッドにいた子だった。
「僕が親になるからいいでしょう?」
こう書いた子もいた。さいかち学級は小学校なので、幼稚園児は週に1回、保護者の同伴でないと教室に遊びにくることができない。おうちの人がこないことがわかったとき、小学生の子が「僕が親になるから、ダメ?」と頼んできたのだった。
どの言葉も胸に迫ってくるが、なかでも印象的なのは、ある少年の書いた詩だ。その少年は、先天性の病気を抱えて、幼いころから入退院を繰り返していた。正義感が強く、学校の友達がいじめられていると聞くと、「許せない。こんなところにいる場合じゃない。早く退院させろ!」と叫んでしまう子だった。
6年生になり、1年半ぶりに退院する日、少年は副島先生に請われて一編の詩を書いた。
お家にいられれば幸せ
ごはんが食べられれば幸せ
空がきれいだと幸せ
みんなが
幸せと思わないことも
幸せに思えるから
ぼくのまわりには
幸せがいっぱいあるんだよ
病気=不幸というのは、周囲の勝手なイメージにすぎない。むしろ病気だから幸せになれることもある。そんな力強さを感じさせる詩だ。
この詩を書いた1カ月後、少年は再び入院した。副島先生は夜の7時過ぎに小学校の職員室で連絡を受けたが、仕事を終えたのは8時少し前。面会時間に間に合わないと、その日にお見舞いに行くのは諦めた。
少年が亡くなったのは、その夜のことだった。