自国企業から徴税できないアメリカ

欧米のグローバル企業は租税回避に戦略的に取り組む(アップル本社)。(AFLO=写真)

ボーダレス・ワールドにおいては、国家と企業の関係も変容する。国境を自在に飛び越えて経済活動をしている多国籍企業は、どこの国でモノを作ればコストが安いか、どこの国でビジネスをすれば税金が安く済むか、といったマネジメントを当然のように行っている。アメリカで「ブルーチップ(優良銘柄)」と呼ばれるような企業の大半は、税率が著しく低いか、もしくは無税のタックス・ヘイブン(租税回避地)を利用している。

アップル、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどIT系グローバルプレーヤーをはじめ、欧米のグローバル企業から租税回避先として重宝されているのがアイルランドである。アイルランドは多国籍企業を誘致するために優遇税制措置を講じていて、法人税率12.5%はEU最低だ。

しかも交渉次第では、さらに低くなり「一桁」の法人税率の企業も珍しくない。

たとえばアップルのアメリカ市場以外の売上比率は約60%。しかし海外で得た利益に対して課せられる税金の税率はわずか2%ほど。アップル本社がある米カリフォルニア州の法人税(法定実効税率)は40.75%、日本は36.99%だから、2%という税率は驚くべき低さだ。

連結ベースで見たグループ全体の実効税率は24~25%程度。それでもカリフォルニア州の法人税から考えれば格段に低い。これもせっせと企業収益を海外に移転して節税に励んだ賜物なのだ。

アップルの節税法は「ダブル・アイリッシュ、ダッチ・サンドウィッチ」と呼ばれている。「ダブル・アイリッシュ」は同社が開発して80年代から取り組んでいる節税スキームで、文字通り、アイルランドに2つの現地法人を設立するのが基本。簡単に言えば、その2つの法人間のお金のやり取りによって海外事業の利益を集約し、最終的にはタックス・ヘイブンである英国領バージン諸島などに利益を移転する節税法である。

さらにアイルランド法人間の取引に、オランダに設立した別法人を噛ませるのが「ダッチ・サンドウィッチ」で、こちらはアイルランドとオランダ(そしてアメリカ)が結んでいる租税条約の非課税特例に着目した節税法だ。