仮に戦場での戦いにたとえてみよう。指揮官が単に命令を下すだけでは部下は思うように動かない。まずは目指すターゲットを明確に示す。そこまでいったら、明らかに形勢が逆転するような高い目標とその意味合いを明示する。次に自軍および相手方の現状を伝える。予想される戦いはどのようなものか。そのうえで勝つための戦略を示し、一人ひとりに役割を与える。部下たちは「これなら勝てる」という筋道が見えれば、力をふり絞って戦う。そして、戦った結果について、どこがよかったか、どこを反省すべきか、節目できちっと総括してやる。的確な総括はスパイラルを加速する。

こうして部下を「よいスパイラル」へと巻き込むには、上司も口先だけでなく、現場で一緒に戦わなければならない。私も部課長時代、毎月のように部下たちと合宿を行った。金曜午後、ホテルに移り、直面する問題をどう解決するか、徹底して議論する。夜10時ごろからは酒を飲み、胸襟を開いて語り合う。翌日はまたディスカッションだ。この合宿の成果を翌週から現場で一緒に実践していく。

ともに戦う体験を通して私が教え込もうとしたのは、仕事の成果はその人の持つ人間力の総和であるということだ。情報の収集には目や耳はもちろん、鼻や皮膚の感覚も大切だ。情報の背後にある本質をつかむには、現場での行動を通じた現実認識が重要で、足腰の強さが求められる。次に情報を頭で分析し、戦略戦術を立てる。困難が予想されれば、腹を据え、度胸や勇気を持って決断する。まわりに自分の考えを口でしっかり伝え、ときには腕力も行使する。そしてハートだ。思いやりがなければ誰もついてこない。