「気づき」はすべてiPadにメモ
見事な分析だが、化粧品の開発がそれほど繊細な消費者心理の理解を前提とするものだとしたら、男性である長野さんにどこまで女性の気持ちが理解できるのだろうか。
「僕は男なので、化粧を落とすのがめんどくさいというような女性の気持ちが本当には実感できない。それは商品開発していく中で、女性に負けている部分ですよね。だから僕は入社以来ずっと、女性向け商品でも全部自分で試してみているんです」
女性用シャンプーやコンディショナーを開発していた研究所時代は、髪を長く伸ばし、さらにパーマやカラーリングもして使用感を確かめる日々。とにかく女性の気持ちになりきらないと、女性の心を掴む商品の開発などできない。FWBの発売イベントでは自らモデルとなって化粧をし、お湯で洗い落としてみせた。今も週に1度は店頭に立って、「実演販売」をしている。まったく新しい商品なので、実物を見せたほうが早いからだ。こんなときお客さんと交わす会話から、開発側には思いもよらない視点に気づくことも多い。
そこで得た「気づき」や、お客さんの感想は、いつも持ち歩いているiPadにメモする。「ぼーっとしながら思いついたことや、社外の友人と話していてひらめいたことも、全部iPadに放り込みます。上司への提案や社外へのプレゼンにもiPadを使っています。これはメチャクチャ使ってますね」
いろいろな人との会話も発想の源だが、長野さんは化学系の雑誌を読んで、「この技術を世の中で応用するなら、どんなものができるかな」と考えることも多いという。
一般的なビジネスのセオリーでは、「まず技術ありき」で発想した商品は消費者のニーズをとらえきれず、開発側の自己満足で終わることが多いとされている。しかし長野さんは技術から発想しつつも、現場の声に耳を傾け、消費者の気持ちに近づく努力を忘れない。そこにヒットを生み出す秘訣があるのだろう。