「もう誰かの下で、働くことはない」

公認会計士:年収800万円~(監査法人の場合) 
柿内暢介●1993年マツダ入社、97年公認会計士試験合格、あずさ監査法人に入社。ユナイテッド・パートナーズ会計事務所を経て、ネクト会計事務所を共同で設立。

キャリアチェンジのために資格取得を目指す人は多い。だが、いまは資格だけで食える時代ではない。資格を取ってから、いかに専門性を高めるかが重要になる。柿内暢介さん(42歳)は、公認会計士となってから、M&A(企業合併・買収)の分野でキャリアを積み上げてきた1人だ。

大学の理工学部卒業後、自動車メーカーに就職した柿内さんが、公認会計士を目指す決意をしたのは入社2年目のこと。病気のため半年間の長期入院をしたのがきっかけだった。

「将来についていろいろと考えるきっかけになりました。有給休暇を消化すれば、休職扱いで給与は出ない。会社は意外に冷たいと感じました。それにまた同じことを繰り返したらどうなるのかという不安もありました。私が出した結論は『手に職をつけよう』。そこで公認会計士を目指したんです」

会計についての知識はまったくなかった。だが、退院と同時に退職し、専門学校に通いながら猛勉強に取り組んだ。1度目の試験は不合格だったが、2度目で見事合格。27歳で大手監査法人に就職し、キャリアチェンジを果たした。

監査法人での仕事は激務だ。残業代を含めれば勤続数年で1000万円近い年収が手に入るが、定年まで勤め続ける人は少ない。柿内さんの場合、入社時には十数人の同期がいたが、現在も勤務しているのは1人だけだという。

柿内さんも、早くから独立志向を抱いていたこともあり、6年間の勤務後、従業員10人程度のITベンチャー企業に飛び込んだ。

「監査業務よりM&AやIPO(新規株式公開)の業務に惹かれました。当時は同期や先輩がIT企業のCFOとして転職するケースが多かった。まだ設立2~3年目の会社でしたが、これから伸びる可能性もあるし、おもしろいと思って転職しました」

もちろん小規模な会社ではCFO業務をするだけではない。肩書こそ管理部長だったが、人事、総務、経理、営業まで、あらゆる仕事をした。転職先の年収は約800万円。年収は下がったが、柿内さんには「経営の実務を知る」という目的があった。

1年ほど勤務し、04年にはM&A業務をメーンとする会計事務所に移る。ここでM&Aという専門を極めた。

「ファンドバブルの時代で案件が次々と持ち込まれました。税務や海外投資など専門知識を持った人たちとプロジェクトをつくり、M&Aのスキームを考えるのです。事業価値の評価には複雑な数式を用いることがあります。私は数学と会計の両方に強みがあるので、期待に応えることができました」

ここでは流通大手ダイエーの事業買収など数十件のM&A案件を手がけた。仕事は多忙を極めたが、収入は監査法人時代の倍近くまで増えた。こうした実績を引っさげて08年に友人と共同で現在の事務所を立ち上げた。

設立当初はリーマンショックの余波で苦しい時期もあったが、いまでは収入も安定し、自分のリズムで働くこともできるようになった。柿内さんは「もう誰かの下で働くことは考えられませんね」と話す。

なお監査法人での柿内さんの同期十数人のうち、現在までに独立しているのが約半数。残り半数は「組織内会計士」として事業法人に勤務しているという。

(プレジデント編集部=撮影)
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