預貯金だけでは資産を増やすことができず、公的年金も安心ではないという世の中ですから、いま日本でもかなりの勢いで個人投資家が増えています。さわかみ投信が週末ごと、お手伝いに行っているセミナーでも参加者は増加傾向にあります。特に40歳以下の若いカップルが目立っています。そういった方々に勧めたいのは、先行き不安な時期だからこそ、動物の本能として「強いものと一緒に強く生きていく」という考え方です。
では、「強いもの」とはなんでしょうか。
国は景気対策のため財政出動を迫られます。それには国債の発行など借金に頼らなければならず、もはや国は「強いもの」とはいえません。逆に、将来を見据えて、はっきりした方向性を打ち出している企業もたくさんあります。
小さな雇用を切って大きな雇用を守るとか、不採算事業から撤退する、大幅赤字覚悟で必要な設備投資を行う。そんなふうに、平時にはできない事業構造の転換に踏み込んでいく企業が「強いもの」で、そういう会社の株を買うのです。
注意しておきたいのは、特に乱世において強い会社を見極めるためには、表面的な数字はあまり参考にならないということです。例えば不況下でもそれなりの利益を出しているとか中途半端に数字がいいような会社は、かえって何もやっていないケースがままあります。
一方、強い会社の経営者は不況下にこそ次の成長(収穫期)に向けた種まきを怠りませんが、種まきの時期には一時的に数字が悪化することもあるのです。ですから「この会社の商品が好きだ」「生き様に共感できる」という好き嫌いの感情を基準にしたほうが、正しい判断にたどりつけるのではないかと思うのです。
一般の人なら、その会社の商品やサービスのほか、工場見学に参加したり、スーパーでの売り方や売れ行きをチェックしたりというやり方があります。メディアを通して経営者の考えを知るということも一つの手がかりにはなります。
ただし、経営者インタビューなどを鵜呑みにしてはいけません。話がうまくて大風呂敷を広げるものの、肝心の実行力がともなわない「有言不実行」型の経営者も多いからです。また、ペンやカメラを通すと実際の発言や人物像とは異なっている場合もあるでしょう。
とはいえ、私は、応援している会社(投資先)の経営者にも面会を求めることはありません。相手はたいへん多忙ですし、その間を縫ってほんの数十分面会しても、人間性まではわからないと思うからです。
それよりも、私の場合は「自分がこの会社の経営者になったらどうするか」という仮説を常に立て、興味のある会社の経営をずっと見続けています。すると価値観が合致していたり、予想以上のすばらしい経営を行う会社が出てきます。
そういう会社の株を、株式市場自体が暴落したとき――言葉を換えれば「応援する」タイミングになったときに買うのです。今回ほどの暴落は極端ですが、ふだんでも年に2、3回は株価が割安になる機会が訪れます。