寒いけど温かい街
ラフロイグはIslay(アイラ)島で蒸留されたもので、ここのピートには海藻が混入するため、麦芽を燻する際、ヨードもしくはクレオソート臭が封入されるのだという。
アイラ島の北はローン湾で、その湾頭にフォート・ウィリアムがある。ここへは1977年秋、訪れた。
英国内はブリットレイルパスを利用して移動したのだが、夜行列車少なく、ホテルの代用とはならず、フォート・ウィリアムで下車、郊外にツェルトを張って、ビバークである。その頃は温暖化の影響などなく、9月は秋ではなく冬で、吹く風は頬を突き刺し、しかも氷雨まで襲ってきた。シュラフにくるまって、駅の売店で買った缶ビールをカップに注ぎ、
「冷やしてないのは、こういうことか」
英国で意外に思ったのは、どこの売店でも缶ビールは常温保存してあり、冷やしていない。その理由を理解したのであった。
と、そこへ不意に外に人影が出現し、声をかけられた。ツェルトをはぐると、ぬっと現れたのは大きな鼻で、毛細血管が浮き出して赤く、猛禽類のような鋭い眼光をしている初老の男だった。スコットランド訛りがきつく、何を言っているのか、よくわからなかったが、私がコップを掲げて、グラス、ゴー、とやって地面に置き、フォートウィリアム、明日は、インヴァーネス、とやると、うむうむ、とうなずき、置いたコップを指して、ポケットから取り出した瓶のコルクをポン、と抜いて注いでくれた。香り高く、濃厚な風味で、私が、
「ウィスキー」
と呟くと、かぶりを振って、
「モルト、シングルモルト」
私の肩を抱いて、聳える山をさした。
「ベン・ネヴィス!」(※モルト名と同じ)
翌朝はよく晴れ、ネス湖はまぶしく輝いていたが、寒くて泳ぐ気にはなれなかった。
一時期、私は減量作戦に水泳を取り入れたことがある。泳ぐのは楽しいが、水着を洗ったり干したりが面倒臭いし、冬は帰りに「湯ざめ」をして風邪をひくこともあり、長続きしなかった。
継続――これがダイエットでは最大の難関だ。