もちろん、落とし穴はある。MVNOは回線事業者からのサポートを受けられない。セキュリティやプライバシーのトラブルが増加し、そうした関心が高まる中、自分で問題に対応しなければならないというのは、なかなか大変だ。また、端末と回線がセットで販売される場合、「安かろう悪かろう端末」があてがわれるケースも散見される。
ビジネス面での課題もある。回線事業者にとって、MVNOに力を入れ過ぎると「利益相反」を起こす可能性がある。MVNOによって通信事業の足下をすくわれてしまうということだ。また、回線事業者が利益を安定的に得られないと、MVNOの条件は厳しいものに戻っていくだろう。
それでも、硬直化していたモバイル業界に、MVNOが新風を吹き込んだことは間違いない。そして、極小基地局やネットワーク機能の仮想化に見られるインフラ技術の多様化と、MVNOが組み合わさることで、通信サービスを回線事業者以外が提供するという、新しいパラダイムが訪れるだろう。
それこそ、イー・アクセスとヤフーの統合構想に、そうした斬新な取り組みを期待したのは、おそらく私だけではないだろう。今回は残念な結果となったが、類似の動きは今後も顕在化するはずだ。
MVNOは、「モバイル通信のコモディティ化」を促した。だからこそ、利便性とリスクが混在している状況にある。課題克服をも事業機会と捕らえるような考え方で、消費者がより安全にMVNOサービスを使える環境を、いちはやく整えていく必要がある。
※1:ケイ・オプティコムは6月11日、6月3日からサービスを開始した携帯電話サービス「mineo(マイネオ)」の申込件数が、6月10日までに1万件を突破したと発表した。リリースによると、利用者のうち初めてMVNOを利用する人が約7割を占めるという。
※2:ヤフーは3月27日に国内携帯電話4位のイー・アクセスを、親会社のソフトバンクから3240億円で買収すると発表していたが、5月19日に一転、買収を中止すると発表した。