大企業の役員は雲の上のさらに上

何でそこまでしてまで辞めたかったかいうと、そうですね、新しい事業をしてみたくても、大企業ではそれができないっていうことを実感したことが一つの理由でした。大企業にいてすごく思ったのは、お金や人が潤沢にあるように見えて、実際の現場レベルではギリギリで仕事を回しているんだ、っていうことでした。一つの予算を獲得するのに、根回しを半年、合計で1年かかるみたいなペースですしね。

ただでさえ成功確率が低い新規事業なのに、そんなことやっていたら成功するわけがないですよね。ただ、それって会社全体としては正しいリソース配分をしているんです。いわゆるイノベーションのジレンマってやつで、結局は何か新しい事業を成功させるには、常にベンチャーが何かをつくって、それに大企業が乗っかるということを繰り返すしかない。そのことを実感として理解することができました。

確かにMBAを取ると、役員の間近で働く機会には恵まれるようにはなりました。富士通のような企業では役員は雲の上のさらに上の人という感じなので、それ自体はとても嬉しかった。でも、彼らは土日を犠牲にして、平日の夜は会食をするなど、プライベートを犠牲にして働いている。一方で、上に行くほどポストは少なくなるので、競争も熾烈になる。その様子を間近に見て、違うキャリアのつくり方をしたいなと思ったんです。

まあ、そういう経緯で転職をして起業したのはいいのですが、実際にやってみると事業がさっぱり売れないという状況に直面したわけです。自信はあったんですけどね(笑)。

当時、僕はお金がないのでクレジットカードで資金を借りて、会社の運用資金に回していました。カードローンってすごい高い金利だというイメージがありますが、交渉して金利を下げ、最終的に7%程度の金利で契約したんです。

それこそ高度経済成長の時代を見れば、銀行の貸出金利も6パー、7パーが当たり前だったわけだから、そんなにべらぼうな金利じゃないなと当時の僕は思っていました。ベストセラーの『金持ち父さん貧乏父さん』を読むと、あの著者も不動産投資か何かで金持ちになる前は、クレジットカードでお金を借りてクルマの中に住んでいたんですよ。だから、先例がないわけでもない。それでカードを2枚つくって、金利を下げる交渉をして、計500万円の枠を用意してもらったんです。