優れたビジョン6つの特性

優れたビジョン特性について経営学者がよく引用するのが、メリーランド大学のエドウィン・ロック教授ら3人が98年に発表した論文です。この論文でロック教授らは、優れたビジョンには6つの特性があることを指摘しました。それらは、(1)簡潔であること、(2)明快であること、(3)ある程度の抽象性を持つこと、(4)チャレンジングなものであること、(5)未来志向であること、(6)ぶれないこと、です。このうち、(4)(5)(6)は比較的自明のことなので、ここでは(1)(2)(3)に注目しましょう。

たとえば、11年に設定されたLIXILグループのビジョンは、「優れた製品とサービスを通じて、世界中の人びとの豊かで快適な住生活の未来に貢献する」というものでした。このビジョンはLIXILの目指す事業ドメインとグローバル化の重視が伝わる一方で、とても簡潔でわかりやすく、条件(1)と(2)を満たしていると、私は評価します。さらに「住生活」というはっきりしたキーワードを入れる一方で、それが細かく具体的すぎず、ほどよいレベルの表現を使っています(条件(3))。

これらのビジョン特性は重要です。まず、長たらしいビジョンはそもそも覚えてもらえませんから、共有化ができません。また、「システムキッチン分野で業界売り上げ1位を維持します」といった、細かい製品の指定や数値目標が入ったビジョンは具体的すぎで柔軟性に欠けます。かといって、「お客様の声に真摯に応えます」では、部下も何を目指していいのかわかりません。この意味でLIXILグループのビジョンは絶妙な例といえるのではないでしょうか。

LIXILは企業の例ですが、部長・課長やチームリーダーでも優れたビジョンは必要なはずです。会社のビジョンをかみ砕き、自分たちのチームで目指すべき姿を、ロック教授の示した6つの特性を踏まえて自分の言葉で部下に伝えていく――。それがトランスフォーメーショナルなリーダーへの第一歩かもしれません。

(構成=荻野進介 写真=ロイター/AFLO)
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