そして、刑務所から返信が
私は美達さんのことを知るまえに、『ライファーズ』というドキュメント映画を見ていました。ライファーズとは、終身刑受刑者のことです。この映画では、米国カリフォルニア州のドノバン刑務所で行われている更生プログラム「アミティ」が取り上げられています。ドノバン刑務所は「アミティ」によって、他の刑務所に比べて再犯率が3分の1になったそうです。
そのことを美達さんに伝えたい。できれば、美達さんに「アミティ」のような更生プログラムを推進してもらいたい。なぜならば、「アミティ」では服役経験者が大きな役目を果たしていたからです。私は勝手に、美達さんならば、その役割ができると思い込みました。そして、居ても立ってもいられず、出版社に手紙を出したのです。その手紙は、出版社から弁護士の先生に回され、美達さんのところに届きました。内容は次のようなものです。
突然のお便りでごめんなさい。私は2人の子供の母親で、今年53歳になるものです。『人を殺すとはどういうことか』を読ませていただき、そのままにすることができずに筆を取りました。
美達さんは、『ライファーズ』はご存じですか? 私はこのドキュメンタリーを見て、とても意味があることだと思いました。アメリカのカリフォルニア州の刑務所内で「更生」に力を注ぐ元受刑者たちが、本当に素晴らしい活動をしているのです。同じ傷を持つ元受刑者の方たちが運営する更生のためのワークショップに参加することによって、この刑務所では再犯率がずっと低くなるのです。
日本に同じような更生プログラムができたらいいなあと思いました。美達さんでしたら、きっとそれができる方だと思ってお便りさせていただきました。
この手紙には、ほかにも「死刑には反対」というような私の考えを述べてあります。
美達さんの返信は、弁護士の先生を経由して送られてきました。文面からも、その真摯さが伝わってきます。
お手紙ありがとうございました。
私は10代の頃より「自分にしかなり得ないなにものかになる為に生まれてきた」というロマン・ロランの言葉を胸に生きてきましたが、その思いは一層強くなっています。
アミティのような更生システムを作れるようにいろいろと考えているところです。自分が努力も反省もせず、流されて暮らすということは、己に対する背信だと思いますが、一人でも多くの者が今の獣の暮らしから脱出できるサポートができれば幸いです。ただ、受刑者というのは本当に心が腐っている輩ですので、簡単ではありません。
私自身、ここに入るまでは真っ直ぐ、正直に生きていると自負していましたが、方向を誤ってしまいました。自分を映す鏡が曇っていたのです。今はその曇りを拭き取るべく、正しく誠実でありたい、信念を貫きたいと考えています。