ここでも密約ベースの自民党外交の弊害が

これも以前に指摘したが(「日本で政権交代がうまくいかない本当の理由」http://president.jp/articles/-/9984)、自民党外交の特徴は密約ベースの属人的な外交で、時のリーダーが相手国とどのような合意や約束をしたか、(意図的に)文書にも残さず、正しい内容を国民に知らせてこなかった。それゆえに政権交代が起きると、外交関係が踏襲されないという大きな問題が依然として存在する。

日中の国交回復も田中角栄というリーダーの属人的な外交成果であり、田中首相と周恩来のほとんど密約のような相互理解によって、尖閣諸島問題の棚上げや戦後賠償とバーターのODAなどが合意されてきた。

A級戦犯を“共通の加害者”に仕立てて、日中両国民は“被害者”であるという前提で日中友好が進められてきたことも、日本の国民は知らされていない。だから中国が靖国問題で怒る、エキサイトする理由がさっぱり理解できずに、「内政干渉だ」と反発したくなる。さらに問題を複雑化したのは、周恩来が持ち出してきた「日中の共通の加害者である軍部独裁」について、きちんと定義しなかったことだ。本当の加害者が誰だったのか、田中首相は歴史学者に手伝ってもらってでも定義しておけばよかったのだが、「よっしゃ、よっしゃ」という田中首相の性格に加えて、密約外交だったために、そうした手続きを踏まなかった。

結果、中国側は東京裁判(極東国際軍事裁判)でA級戦犯とされた人たちを軍部独裁の責任者とみなしてしまった。東京裁判でのA級戦犯、B級戦犯、C級戦犯というのは職業上のクラス分けのようなもので、罪の軽重ではない。A級戦犯の中には処刑された人もいれば、自害した人もいる。病死した人もいれば、安倍首相の祖父である岸信介のように、GHQの占領政策転換で罪が軽減され、生き残って首相にまでなった人もいる。

東京裁判の正当性にも問題があるし、A級戦犯の定義もきわめて曖昧だ。にもかかわらず、外交交渉ではなく、ほぼ“密約”で行われたために、A級戦犯を加害者に仕立てるということで中国との間で“手打ち”が行われてしまったのである。

属人的で密約ベースの自民党外交においては、文書は残されていないし、外交内容は継承されにくい。一方、中国は共産党一党独裁だから外交内容が継承されやすい。靖国問題をめぐる日中の噛み合わせの悪さには、そうした理由もあるのだろう。