中国は戸籍の場所で保障内容が大違い
中国の公的医療保険の特徴は、戸籍がある場所によって内容が異なること。都市戸籍の勤労者は「従業員基本医療保険」に、都市戸籍でも非勤労者は「都市住民基本医療保険」に、農村戸籍の人は「新型農村合作医療保険」に加入する。
丸紅米国会社ワシントン事務所のシニア・アナリストで中国の保険制度に詳しい李雪連さんは、それらの保険料について「勤労者向けの保険の場合、個人が給与所得に比例して2%程度を目安に納入するほか、勤務先の企業も比例して6%程度を目安に納めることになります」という。ここで李さんが「目安」という言葉を使ったのはなぜか。日本なら一律のはずだ。海外邦人医療基金で中国の医療現場をウオッチしている業務部長の宮本昌和さんが、その特殊事情を説明する。
「中国を1つの国として考えてはいけません。大枠の制度は統一されていても、実際の運用は、省、市、県レベルで変わってきます。保険料についても事情は同じで、手元の資料を見ると、上海市の保険料の負担は勤務先が12%で、勤労者は2%なのに対して、広州市ではおのおの8%と2%になっています」
各保険は基本的に戸籍のある病院での診療を対象としている。そこで問題になるのが、農村部から都市部に出稼ぎに来ている「農民工」と呼ばれる人たちの存在だ。前出の金子さんと同じく国立社会保障・人口問題研究所で国際関係部第2室長を務める小島克久さんは、「彼らは、居住する都市での医療保険の加入率が低く、新型農村合作医療保険を利用するための帰郷も現実的ではない。結局、彼らは実質的に医療保障を受けられない状態にある場合が多いのです」と指摘する。