どこの国でも買収した企業を100日でGE化せよ

大政氏と伊藤氏が共通に指摘するのは、人事制度に限らず、働き方を含めた人事政策全般のグローバル基準の浸透とそのためのトップダウン型の指揮命令体制を敷いていることだ。GEバリューの浸透のための手法やトレーニング手法もすべてがパッケージ化され、買収企業にも即応できる仕組みになっている。どこの国のどんな企業を買収しても「100日でGE化しろ、とウェルチは言っていたが、それが可能なほど完璧なシステムが構築されている」(伊藤氏)と言う。

「GEは人事制度やコンプライアンスにしても非常に一貫性を持った考え方でやっています。世界中でものすごい勢いで多くの会社を買収しているわけですから、1つの統一した基準とプロセス、ポリシーが貫徹していないとバラバラになってしまうことになります。たとえば約束したことを果たす期日を守ることも1つの目標です。こちらが途中で不可抗力があって間に合わないと言っても『最初に期日をコミットしたのだから、それができなかったということはフェイル(未達)だ』と言われます」(伊藤氏)

規格の標準化・厳格化とトップダウンの指揮命令方式は、GEに限らずアメリカ企業の特徴の1つだ。大政氏もその徹底ぶりに苦労した経験を持つ。

「ウェルチの方針でGE傘下の消費者金融2社を合併することになりました。私の使命は合併化と200人の人員削減でした。言われたのは『人数が欠けてはいけない、トラブルは絶対に起こすな』というものです。当時は業績もよかったので手厚い退職パッケージを用意し、GE化に反発している人を中心に退職勧奨したのです。

その結果、退職に手を挙げた人が300人いました。ところが本国は『300人も辞めさせてどうするんだ。それではオペレーションが回らないだろう』と言ってきました。その一方で、リストラ計画が始まると『今日は何人、辞めたのか』と問い合わせがくるわけです。私としては、日々、現場で生身の人を相手にしています。数合わせとは違うんだ、と何度もやり合いましたが、その点はGEの非情なところでもあります」(大政氏)

トップダウン型の弊害もないわけではないが、もちろん強みも多い。その1つがダイバーシティの推進だ。GEはウェルチの時代から女性の登用を積極的に推進している。

「長崎のハウステンボスの大ホールで会議を開催したときです。アジアパシフィック地区のトップが壇上に立って『君たちの周りに女性が何人いますか』といきなり聞くんです。ほとんどが男性で女性は少なかった。すると『今から2年以内に、ここに20%の女性がいるようにしてください』と、具体的な数字を挙げて言いました。彼はアジアパシフィック地区のあらゆる場で言って回りました。方針が決まった以上、達成できなければ、人事部長や各部門の責任者は何をやっているんだ、という話になります。そのときはトップダウンで強制するのはどうかなと思ったのですが、確かに男性と女性が同じ数だけいるのに、少ないのはおかしいのも事実です。採用時に女性の候補者を意識するようになり、それ以降、女性の登用も進んでいきました」(伊藤氏)

言うまでもなくグローバルトップの強い決断とトップダウンのオペレーションがなければ、ダイバーシティのような文化の変革は進まない。こうしたGEの仕組みがグローバル競争での成功につながっていることは否定できない。人材活用を含めたグローバル展開のモデルを確立したGEに対抗できる仕組みを日本企業ははたして構築できるのだろうか。

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