たとえば大学教師の場合、表向き公募であっても、仲介者のあるほうが両者にとって好ましく、採用に至る可能性が高い。ある意味でスカウト人事のようなものなのだ。建前の「公募」ということを信じれば、コネ採用には何か不正を働いたような後ろめたさがある。しかし、原理的にはこちらのほうが優れている。結婚に関しても同じである。

すると、就活や婚活と称して自分を売り込むことに懸命になるよりも、むしろ自分を誰かに紹介してくれるような人間関係をつくることが大切である。

そのための鍵となるのが、仕事を離れた趣味である。かつては義太夫や謡をやるといった習い事が重視されたが、これも人間関係をつくるためだ。そこまで手間ひまのかかる趣味ではなくても、歌舞伎を観るとか映画に詳しいといった得意分野を持つことが大事だろう。

趣味を持てば、他人との共通体験を持つことができる。

谷崎潤一郎の名作『細雪』。長大な作品の縦糸となるのは、4姉妹の三女が見合いを繰り返し、結婚を決めるまでのストーリーだ。その間、さまざまなルートから縁談が持ち込まれ、それぞれの事情により破談を繰り返す。そのディテールを読むことで、有縁社会の仕組みを了解することができるのだ。

作中で何度も話題に上るのが、戦前から戦後にかけての歌舞伎の名優・6代目尾上菊五郎である。当時、ある程度文化に関心を持つ人の間では、歌舞伎が共通の関心事だったことを意味している。

仕事だけに集中するのではなく、そういった趣味にも関心を持つことで上質な人間関係をつくることができる。そこにひとつの縁が生じ、よき結婚やよき就職につながるかもしれないのだ。

変化の兆しはある。「つながり」を求めて若い人が地域の祭りに参加したり、各地の“パワースポット”を巡礼したりという姿を見かけるようになった。