酒井師が住職を務める飯室谷不動堂長寿院本堂裏の滝。師はいまも「一日一行」と称して、早朝3時半頃に起床した後、この滝に打たれる。

僕は頭が古いのかもしれないけど、戦前のことを何でも悪くいうのはやめて「いいものはいい」といわなくちゃいけないと思うんだ。

ただ、東日本大震災が起きてからは、「絆」を見直そうという動きがあるというじゃない。いまの日本は、経済もそうだけど、精神的にも転換期にきていると思うな。そういう意味では、国を立て直すチャンスだよ。

いろいろと事情は違うけど、終戦のときだって、何もかもなくした中から這い上がってきたんだからね。日本人は技術を持っているし勤勉だから、それを生かせば絶対に復興できると思うんだ。目の前の現実を見て「日本はもう駄目だ」「おしまいだ」とか寂しいことをいわないで、前向きに、誇りを持ってやっていく必要があるんじゃないのかな。

僕のところへも「被災地へボランティアに行ってきました」と報告に来る人がいるんだよ。話を聞いていると、とにかく「みんなが幸せになるように」という強い気持ちを持っている。日本人は捨てたものじゃないんだ。弱気になったらいけないよ。

天台宗大阿闍梨 酒井雄哉
1926年、大阪府生まれ。慶應義塾商業学校を経て熊本県人吉の予科練に志願。鹿児島県鹿屋の特攻隊基地で終戦を迎える。戦後は職を転々とし、妻の自殺をきっかけに40歳のときに仏門へ。「千日回峰行」を2度も満行。『一日一生』『この世で大切なものってなんですか』(共著)など著書多数。
(構成=面澤淳市(プレジデント編集部) 撮影=芳地博之)
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