弘兼憲史
漫画家、『島耕作』シリーズ作者

俣野成敏

起業家、『プロフェッショナルサラリーマン』著者

【俣野】Q&Aを連載していたPRESIDENT Onlineには読者から悩みがたくさん寄せられました。なかでも多かったのが人間関係、特に上司との関係についての相談です。

【弘兼】学生のころは、自分と同年代の気の合う仲間と気楽にやっていればいい。ところが会社に入ると、まず隣にいる人の年齢が違う。それから自分とは絶対合わないタイプが同じ部署に1人や2人はいる。でも嫌だといって逃げ出すわけにいかない。これはどうしたらいいんだろうと悩む人は多いでしょう。

【俣野】弘兼先生は、上司とウマが合わずに悩んだことはありますか?

【弘兼】松下に入社したばかりのとき、みんなから嫌われていた部長がいましたが、その人は仕事がすごくできたんですよね。たとえばその部長のところに書類を持っていくとします。一生懸命徹夜して仕上げて、くまなくチェックしたものの、でも何枚目のここだけはちょっと心配だなと思っていると、必ずそこで部長の目が止まる(笑)。その途端に「やり直し」とこうくるんです。悔しいけど、さすがだな、と。でもこういう上司には誰も近づこうとしないから、チャンスなんですよ。

【俣野】そうですね、空いてますからね。

【弘兼】だからあざとくならないように、近寄るといいと思う。僕の場合は、たまたま帰り道が一緒だったので、部長が駅のホームで1人で文庫本か何か読みながら電車が来るのを待っているとき横に行って、「この間のあれなんですけど、どうやったのか、僕にはわからないんですよ」みたいなことを聞く。すると意外にも、「そんなこと自分で考えろ」とは言わないんですよ。ちょっとめんどくさそうだったけど、「それはな」と答えてくれる。そのうちいろんなことを教えてくれるようになって、なんとなくその部長に好かれてしまいました(笑)。「こいつは可愛いやつだ」と思われたんですね。

やがて部長が大阪の宗右衛門町あたりの高級料亭でいろんな人と商談するときもカバン持ちみたいなかたちで連れていってもらえるようになりました。おかげで普通なら見られないようなワンランク上の世界を見ることができた。

【俣野】それは非常によかったですね。