サントリーグループとの提携40周年の今年、ロスチャイルド家が所有するフランスのワイン銘醸地ボルドーの代表銘柄「シャトー ラフィット・ロートシルト」のオーナー、サスキア氏が来日した。世界的な規模でワイナリーを経営するDBRラフィット社、そのオーナー兼CEOである。就任以来、ぶどう栽培から大胆に見直し、サスティナビリティを重視した経営方針が、いま世界の注目を集めている。彼女が考える「次の150年」も愛されるワインづくりの哲学に迫る。

1855年の公式格付けで、ボルドー・メドック格付け1級筆頭となった「シャトー ラフィット・ロートシルト」は、名実ともに世界最高峰の赤ワインのひとつだ。気品と繊細さにあふれた、きめ細かな口当たり、エレガントで長い余韻は比類がなく、長期熟成を経てさらに荘厳な姿を見せてくれる。

1868年よりシャトーのオーナーを務めるロスチャイルド家は、長い歴史の中で培われた技術と秀逸性の追求に尽力。1974年から当主を務めたバロン エリック ド ロスチャイルド氏は、海外にも積極的に進出。チリやアルゼンチン、中国にもワイナリーを抱え、グローバルな戦略を展開してきた。

ワイン
シャトー ラフィット・ロートシルト2018のボトル。ワイナリー経営150年を記念してつくられたラベルには気球の絵が描かれている。

2018年、そのエリック氏からシャトーを引き継いだのが、6代目DBRラフィット社のオーナー兼CEOであるサスキア ド ロスチャイルド氏である。

「父から受け継いだものは、パッション=情熱です。さらに、著名な醸造家たちに出会う機会も数多くありましたから、そういう方たちのワインを試飲するたびに、ワインというのは何とマジックなのだろうという驚きと喜びを感じることができ、ますますワインに対する情熱が増しました」とサスキア氏。

実際、サスキア氏は会社を継ぐにあたり、まずはボルドー大学に入学し、醸造学や葡萄栽培学について学んだ。また、DBRラフィット社が所有する「シャトー レヴァンジル」では、自らの素性を隠しスタージュ(研修生)として下積みも経験、意欲的に学びながら、少しずつ現場に入っていったという。そういう意味でも、十分に準備を重ねた上でレガシーを受け継いだといえるだろう。

サスティナブルへの取り組みが、これからのワインづくりに欠かせない理由

サスキア氏がこれまで進めてきたのが、有機栽培や資源のリサイクルなど、サスティナビリティとその情報の透明性といった取り組みである。「シャトー レヴァンジル」でオーガニック栽培を開始したのを皮切りに、現在ではフランスのボルドーに所有するロスチャイルド家のぶどう畑のほとんどでオーガニック認証を取得し、サスティナブルな栽培を強化している。

畑
シャトー ラフィットの畑。見るからにすがすがしく、人の営みと自然との見事な調和を示している。

「他の製造業と大きく違うところは、ワインづくりは自然なくしてはやっていけないということです。つまり、環境を保護するということと、ベネフィット=利益を出すことのバランスを上手にとっていかなければなりません。自然を壊してでも、どんどんものづくりをすれば売れていくというものではありませんから、環境に配慮しなければ存続することができないのです。ですから、土壌を守るためにカバークロップとして雑草を生やしたままにする、生物多様性のためにぶどうの樹を抜いて新たに生け垣や大きな樹を植えて森をつくることもあります。農薬や化学肥料を使えば使うほど、土壌は痩せてぶどうの樹が弱っていくことは、昔から感じていましたから、大胆に変えていかなければどんどん消滅してしまいます」と危機感を募らせる。

そう語るサスキア氏の「どうしてもその声を聞かなければならないのが『ネイチャー=自然』である」という言葉は重い。それは「次に残すために栽培をする」という、ロスチャイルド家の家訓とも重なる。

サスキア氏
快活な笑顔で話すサスキア氏。名門、HECビジネススクールの修士課程を修め、さらにコロンビア大学でジャーナリズムを学び、ニューヨーク・タイムズでジャーナリストとして活躍した経歴の持ち主。ラフな服装は、いまでもワインづくりの現場に関わっていることの表れだ。

DBRラフィット社のシンボルマーク、品質を保つための「5本の矢」とは

150年以上にわたりロスチャイルド家が所有するシャトー ラフィット・ロートシルトは、今後の150年をどう見据えているのだろうか。

「ラフィットというシャトーは、これまでも存在してきましたし、これからも存在し続ける歴史あるシャトーです。ですから、常に長期的な視野に立ってものを考えるようにしています」とサスキア氏。

そのために必要なのは、リーダーシップよりもチームワークだという。「いまは非常に速いスピードで世の中が変わっていきます。価値観も随分と変わってきていますし、時代に合わせてより短期的な見方をする人もいます。だからこそ、どんなに難しいときでも、私たちチームはよく話し合い、ロングタイムな視点で物事を判断します。ワインはさまざまなエレメントが重なって年ごとの個性が出ます。原酒をブレンドするアッサンブラージュひとつとっても責任者一人の決定ではなく、チームで話し合いをして方針を決める。チーム全員の知性でワインづくりをしているのです」と話す。

一方、リーダーとしてファミリービジネスだからこそ守れる企業の価値について尋ねると、次のような答えが返ってきた。「やはり継続性でしょう。それがしっかりと地域に根を下ろした安定的な発展に繋がっていきます。家族経営の場合には、いかにしていまのこの事業を発展させ、継続させていくかということが常に頭にあると思います」

DBRラフィット社のワインの目印「5本の矢」
DBRラフィット社のワインの目印「5本の矢」。
5つの経営方針
伝統的な「5本の矢」のマークになぞらえて、5つの経営方針を掲げる。

家族に受け継がれているものといえば、DBRラフィット社のワインボトルには5本の矢のシンボルマークがある。ロスチャイルド家の5人兄弟の連携を表すマークであるが、いまでは社としての品質を保証する意味でボトルのあしらいとして用いられている。同社では、その5本の矢になぞらえて、上図のようなサスティナブルな経営方針を提示している。「ラフィットには、ゆっくりゆっくり着実に少しずつ進んでいく、そして、同時に高いところに上って世の中を見渡すという家訓があるのです」と語るサスキア氏の哲学が表れているといえるだろう。

サントリーグループとロスチャイルド家、40年の絆

1985年にサントリーと提携を開始して以来、日本では主にサントリーグループがDBRラフィット社のワインを輸入・販売している。サスキア氏は「サントリーも同じく家族経営から始まった企業です。早くから『シャトー ラグランジュ』などのシャトー経営にも携わっており、ボルドーのことをよくご存じです。たとえば『雹が降って大変だった』と言えば、すぐに理解してもらえます。まさに同志のようなパートナーシップといえるでしょう。私たちにとって日本のマーケットはプライオリティが高い。それに日本のみなさんはとてもパッションがあって、しかも興味深く話を聞いてくれて、ワインへの関心も高い。そして学ぼうとする意欲がとても素晴らしいと思います」と話す。

ワインは心を潤す飲み物である。「そのおいしさを最終的に決めるのは自分のハート、好き嫌いという直感で決めてください」と笑顔を浮かべるサスキア氏の言葉が心に残った。

DBRラフィット社のワインをカジュアルに愉しむ

サスキア氏が率いるDBRラフィット社は、そのワインづくりの哲学を感じられる上質なカジュアルワインもそろえている。その中から、デイリーに愉しめる2本を紹介。ぜひ日々の食卓に取り入れて。

サガRボルドールージュ

【製品名】ドメーヌ バロン ド ロートシルト サガ R ボルドー ルージュ
【内容量】750ml
【参考価格】2,660円(税抜)
【輸入元】サントリー株式会社
名門ロスチャイルド家がつくる、シルキーで上品な味わいのボルドーワイン。熟したプラムやカシスなどを連想させる甘い果実の香りに、瑞々しいスミレの花を思わせる涼やかさが特長の、エレガントで上品な味わいの赤ワイン。

ロス ヴァスコス カベルネ ソーヴィニヨン

【製品名】ロス ヴァスコス カベルネ・ソーヴィニヨン
【内容量】750ml
【参考価格】1,930円(税抜)
【輸入元】サントリー株式会社
名門ロスチャイルド家(フランス)がチリでつくる、エレガントで飲み心地の良い逸品。ハーブを思わせる爽やかな香りと、果実の自然な凝縮感のある程良いボディのワイン。飲み応えがありながらも、きめが細かくなめらかな口当たり。

ストップ!20歳未満飲酒・飲酒運転。