1921年創業。現在、三つのカンパニーで事業を展開し、多様な医療現場、製薬企業、また患者に向けて5万点を超える製品やサービスを提供する。海外にも多くの事業所、生産拠点、研究開発拠点を持つグローバル企業。東証プライム市場上場。

1964年生まれ。88年慶應義塾大学経済学部卒業。東亜燃料工業(現ENEOS)、シティバンク、エヌ・エイを経て、2002年テルモ入社。専務経営役員メディカルケアソリューションズカンパニープレジデントなどを経て、24年4月より現職。
「医療を通じて社会に貢献する」。テルモにとってこの企業理念は、創業から変わらぬ思いであり、100年を超える歩みそのものといえます。スペイン風邪が流行し公衆衛生の向上が求められる中で国産体温計を製造した当社は、1960年代に入り、当時大きな問題だった注射器の再使用による感染症のまん延を防ぐべく日本初の「使い切り注射器」を発売。その後も、安全な輸血を支える血液バッグ、低侵襲なカテーテル治療に不可欠なデバイス類などを開発してきました。時々の社会課題、医療課題と真正面から向き合い、自分たちがすべきことを追求する。これがテルモの原動力なのです。
70年代から海外へ進出し、近年外国企業とのM&Aを進めているのも、グローバルで医療ニーズに応えたい、そのために必要な技術やリソースを獲得したいとの考えからです。グループのアソシエイト(社員)数3万人超、海外売上高比率およそ8割というグローバル経営を支えているのは、確固たる企業理念に他なりません。企業である以上、もちろん収益は重要です。ただ、それは医療や患者さんへの貢献を追求した結果。こうした考えが世界中で深く共有されている企業は他になかなかないと自負しています。
“体験価値”を高めることで医療現場の課題に応えていく
では、そうしたテルモが今後どのような経営を目指すのか。医療財源の逼迫や医療従事者の不足、そして個別化医療の進展など、さまざまな課題がある中、中長期ビジョンとして掲げているのが「デバイスからソリューションへ」です。単に医療機器を提供するのではなく、それが医療従事者や患者さんにもたらす“体験価値”、これを重視していきます。
実現に当たり一つポイントとなるのは、デバイスとデバイス、デバイスと医薬品、デバイスと診断などの組み合わせです。なぜなら、医療が急速に高度化する今、製品単体で解決できる課題は決して多くないからです。例えば当社は、これまで医療機関で点滴投与する必要があった薬品を、デバイスとの組み合わせにより在宅で短時間かつ簡便に投与できるようにすることを目指し、医薬品メーカーと共同開発しています。まさに体験価値の向上ですし、医療現場の負担軽減や医薬品の価値向上にもつながります。
新たな着想に基づくイノベーションはテルモの成長戦略の重要な鍵。そして、イノベーションのヒントは常に現場にあります。ただ、医療を取り巻く環境が激変する今、医療従事者も、患者さんも、自身のニーズやウォンツを的確に言語化するのは難しい。そこでの当社の役割は潜在的な課題や悩みをすくい上げ、その解決策を形にすること。そのためには営業、研究開発、マーケティングなど部門を問わず、一人一人が現場をつぶさに観察し、彼らの困り事を理解することが重要です。加えて、既存の枠組みにとどまった守りの姿勢では真に価値のあるイノベーションは生み出せない。その意味で、誰もが挑戦でき、前向きな失敗は肯定する風土をつくることも経営者の大事な仕事だと考えています。
売上高1兆円を通過点としてさらなる自己変革を目指す
社長に就任し私が改めて実感しているのは、企業にとって「経営戦略」と「企業文化」のバランスが非常に重要であるということです。この二つが調和してこそ、持続的な成長が可能になります。当社には、企業理念に基づいて自社の社会的な存在意義を問い続ける文化が根付いています。同じ志を持った国内外のアソシエイトが刺激し合う中で、世界で活躍できるグローバルタレントが育ち、多様性を生かせる体制も十分整ってきました。経営トップとしてこれからも企業理念や文化の意義を発信し続け、この流れを後押ししていきたいと思っています。
一方の経営戦略については、現有の経営資源を生かしたオーガニックな成長が今後も基盤となります。それに加えて、M&Aを経営の中心に据え、より積極的に進めることで、従来の延長線上ではない“非連続的な成長”も追求します。戦略と文化の双方を磨き上げていくことで、テルモをグローバルレベルのエクセレントカンパニーに押し上げたいと考えています。
2024年度の売上高は初めて1兆円を超える見込みです。104年かけて到達した素晴らしい成果ですが、一つのマイルストーンだと捉えています。社会、医療の課題と真摯に向き合い、常に自己変革していく。これが私たちのDNAです。「医療を通じて社会に貢献する」の意義が大きくなっている時代の中で、テルモがどんなソリューションを生み出すのか、ご注目ください。