またマクロ経済学者でアメリカ流メソッドの伝達者であった多摩大学名誉学長の中谷巌教授は「表面的な知識を得るのではなく、ものごとの背景にある本当の意味や底流に流れる思想・哲学を知ることで、しっかりとした歴史観や世界観を養うことが出来る。そのことがやがて確固たる自己認識の確立につながり「志」を生む源泉になる」(asahi.com大学長インタビュー、2008.3.1)とアメリカ流一辺倒ではなく、懺悔を含めて日本の歴史観の必要性を訴えています。またSBIグループCEOで若い社員に週一で1万字の宿題論文を課している北尾吉孝氏は「混迷の世界経済のなかで、伸びる産業や技術は何か。真贋を見抜く目を養うのは、やはり哲学と歴史しかない」(AERAの3月23日号より)と述べています。

アーティストであり、教育者でもある日比野克彦さんと子どもたちがヨットの帆に絵を描いた。
写真を拡大
アーティストであり、教育者でもある日比野克彦さんと子どもたちがヨットの帆に絵を描いた。

これらのビジネスセオリーは驚くほど、アーティストがアーティストに成るために必要不可欠なポイントと似ています。それは1)集中して大量のデッサンを描く受験勉強を含む経験によって圧倒的な技術力・手技を持つこと。2)自分の作品をプレゼンテーションするためにコミュニケーション能力を身に付けること。3)自分のアイデンティティである日本人であることを理解してもらうために日本の歴史や哲学を学ぶこと、の3つです。

これらは、先述した諸先輩のアドバイスとほぼ同じです。おそらく社会人として生きるため、プロになるための共通項なのかもしれません。実は、今から15年以上前のことですが、美大の授業には哲学の授業がないことにとても驚きました。あったとしても選択科目で決して深く学ぶわけではないのです。歴史や宗教の授業も同様です。歴史、哲学、宗教の3つは、欧米の大学では必ず学ぶものです。ポイントは、これらの学問は、ディスカッションを重視していて、一人一人が深く考え抜く訓練になるという点です。

欧米のエグゼクティブビジネスマンの中には、経済学と哲学、経済学と宗教学というようにいくつかの専門を修了している方も少なくありません。また、もし授業で学ばなかったとしても、家庭で子供の頃から祖父母から両親へ受け継いで教えを受けているはずのものです。残念なことながら、歴史、哲学、宗教は、日本が第二次世界大戦に敗戦してからというもの、不幸にも教育に力が入ってこなかった科目と言えるでしょう。

大学生という比較的自分のために時間が使える時に、圧倒的に絵を描くことを自分に科することは大事なことだと思いますし、歴史・哲学・宗教といった日本人のアンデンティティに関する分野は、学んでも学んでも時間が足りない大きなスケールの学問です。